映画『アレックス』
今からかれこれ10年前
あれは確か友人の結婚式に参加した翌日
地方からの帰途に
有楽町周辺で油を売っていたところ
ふとポスター看板が目にとまり
ああ
モニカ・ベルッチの
暴行シーンが話題になってるやつだな
と思い出し
監督が問題児で知られる
ギャスパー・ノエというのも後押しして
怖いもの見たさ半分で
ふら~っと入り込んで観た一本
2002年のフランス映画
『アレックス』
↓↓↓
映画の上映開始まで
まだ15分ほど時間がありました
館内は
人もまばらで
10人もいなかったように思います
それもそのはず
平日の真っ昼間に
悠長に映画を観る人などそういませんよね
僕は後方の座席に腰掛け
上映が開始されるまでの間
持参していた本を読んでいました
…と
どこからともなく
館内に妙な音が流れているのに気がつきました
はじめは小さな音で
ハエの音かなと思ったくらいですが
だんだんと音が大きくなり
BGMであることがわかりました
ブ~ンブ~ン
と耳障りな音が
延々と鳴り続けていました
音が旋回している感じで
近づくように大きく聴こえ
遠ざかるように小さく聴こえ
なんだか気になるな~
うっとうしいな~
と思いつつ
とにかく気を紛らわそうと
一生懸命に本の字面を追っていたのを覚えています
それにしても不快な気持ちにさせるBGMでした…
一体全体
どういうセンスをしてるんだろう⁈
と文字通り、耳を疑いました
映画が始まるまでの辛抱だと
自分に言い聞かせ
じっと我慢しながら
本を読んで過ごしていましたが
落ち着かないでそわそわする自分を
どうにも拭うことができずにいました
そうしてやがてBGMは
開映ブザーの音で唐突に断ち切られ
それから予告編に続いて
本編が始まりました
…と
これは…
いきなりのエンドクレジット…
そして逆回転でクレジットロールが巻き戻されていく…
さらにそのクレジッドロールが
徐々にいびつに傾いてきて
文字が斜めに滑ってきたと思いきや
出演者の名前やらタイトルやらが
ドンドンと大写しで映し出されていく
う~ん
しょっぱなから不意打ちを喰らいましたね
と
そして
あ
あのBGMの音だ
ブ~ンブ~ン…
そうか
あの音は
この映画のサウンドだったのか
今さらながら気づいたのもつかの間
カメラは闇の中にどんどん入り込み
映画は得体の知れない不安に一瞬で包まれます
なにせ映像が荒れまくっている
手持ちカメラで一体何を撮っているのか
さっぱりわかりません
一体これから何が始まるんだろうと
えも言われぬ不安だけが増幅されます
モニカ・ベルッチの凌辱シーンがいつ出るのか
ドキドキしながら待ちつつ
意表を突いた映画の始まりに
体がじっとりと汗ばんでいくのを覚えました…
最初にエンドクレジットが流れたように
この映画は
プロットごとに
物語が過去へ過去へと
どんどん遡っていくというユニークな構成
ストーリーは大まかに
婚約者をレイプされた男による復讐の話
ということで
案の定
映画の内容はエグかったですね…
途中映し出される
凄惨極まりない暴行シーン…
そして
映画はヒロインが凌辱される前の場面に
どんどんと遡っていきます
時間が逆行するにつれて
恋人たちの幸せいっぱいの模様が
映し出されていきます
う~ん
悲惨な結末を先に観ている観客にとって
この幸福なシーンは
あまりにも酷すぎます…
しかしそれを踏まえた上でもなお
衝撃と
そして神々しいまでの感動をもたらす
ラスト
いや本来のオープニング
実験映像で知られる作家
トニー・ヒルばりの
カメラが弧を描くように回転する無重力ショットの後に続くのは
すべてをぶち壊す
無に帰する
光と影のまばゆい点滅…
これまた日本の実験映画作家
松本俊夫の技法を彷彿とさせる
破壊と再生を表現したショット
フランスが誇る鬼才
ギャスパー・ノエの
どこまでも観客を挑発する
この不敵な実験精神
恐るべしです…
しっかし
やられましたね…
僕は正直
映画が終わっても
すぐに立ち上がることができないでいました
ヘトヘトに疲れて
ちょっと放心状態に陥ってしまいました…
画面いっぱいに拡がるラストの点滅した光が
まぶたの裏にしばらく焼きついて離れないでいましたね
そうして
5分くらい席に座っていたでしょうか
ほどなくして
また“あの音”が
館内のどこからか流れ始めました
ああ
そして
映画館を後にした時
僕は完全に
“あの音”の
虜になっていました…
あのブ~ンという音が
聴きたくてしょうがない
そんな思いに
無性にさいなまれてしまったのです…
いやあ
これこそが
まさに映画の持つパワー
音と映像を通して
観る者の五感を揺さぶり
一人一人の
既存のフレーム
価値観を
はみ出させ
そうすることで
自ずと観る者の感情をジャックしてしまう
これはまこと確信犯的な戦略です
しかし
これこそが芸術や表現の真骨頂
そもそも
自分の狭いフレームをどんどん壊すことによって
感性が磨かれ
新たな自己が獲得されていくもの
僕は大いに影響されてしかるべきかなと思います
まあ最近は特に
とんがった映画というものに
そうなかなかお目にかかれませんからね
というわけで
この『アレックス』は
ある意味
とても危険な映画と言えましょうか
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