映画『菊豆』

前回に引き続き

再びチャン・イーモウ監督作です

1990年製作

中国・日本合作の

『菊豆(チュイトウ)』

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第1作『紅いコーリャン』(1987)で

華々しい監督デビューを飾った

チャンの3作目は

染物屋の老主人のもとに嫁いだ女性の

苛酷な運命を描く異色のドラマです

1920年代の中国山東省

染物屋を営む50歳過ぎの楊金山のもとに

大金を積んで売られてきた若妻の

菊豆(チュイトウ)

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子が出来ない身体の金山は

そのことによる怒りを菊豆にぶつけ

毎日のように折檻を繰り返していた

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同居する金山の甥・天青は

そんな菊豆に同情し

密かに想いを寄せていた

そんな二人はいつしか心を寄せ合い

不倫関係へと陥っていく

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やがて菊豆は天青の子どもを身ごもり

生まれた男の子を

金山は自分の子と思い

天白と名付け可愛いがる

しかしある時

脳卒中を起こし半身不随となった金山に

菊豆は復讐するように

天白が彼の子ではないことを明かす

菊豆と天青の裏切りに怒り狂う金山だが

身体が不自由ゆえになすすべもない

どういうわけか

天白は3歳になっても

いっこうに喋らず笑いもしなかった

そんな天白がある日

車椅子の金山に向かって

「お父さん」と呼ぶ

驚いた金山は以後

何かと天白を可愛がるようになる

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そんな矢先

金山は誤って染料の池に落ちて溺死する

しかし天白は

落ちた不随の金山を助けることもせず

その一部始終をじっと眺めながら

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不気味にも初めて笑顔を見せる

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そうして金山亡き後

菊豆と天青は内縁の夫婦となるが

子どもの天白との思わぬ軋轢から

事態は不可解な展開を見せ

悲劇的な結末へとなだれ込んでいく…

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つくづく

1920年代の中国の田舎の

美しい田園風景にほのかに宿る

陰湿で不穏なムード

古い因習に縛られた封建的な村社会

そこから抜け出ることが

精神的も経済的にも困難な

歪な環境下で

虐げられて生きる菊豆と天青が

染物屋の老主人の抑圧の中で

密かに想いを募らせ

そうして

許されぬ恋に溺れていく

って

度々

菊豆の入浴中の姿を

小さな穴から覗き見る天青

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表現の規制が強い中国における

ギリギリのエロスの描写が

なんとも官能的で

色気を際立たせますね

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また

2人の情欲が激しく燃え上がる様を

赤い染織りの布が

クルクルと解かれて落ちていく様で表現するなど

アートな工夫も凝らされていて

面白いですね

土俗的な村社会は

道を踏み外した者を

決して許すことはしない

死んだ金山の親戚一同が集まり

家の財産は子の天白が引き継ぎ

菊豆には再婚が許されず

天青は居を移り毎日通うよう

長老から言いつけられる

さらに2人に

過酷な試練が課せられる

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葬式で棺の乗った籠の行進を

49回止める習わしがあり

菊豆と天青は罰として

この行進を繰り返し止める役を任され

途中、苦しくて涙を流しながらも

最後までやり抜く…

縛られる古い慣習

愚かさと滑稽さ

そして哀しさが滲む

理不尽なしきたり…

月日が流れ

子どもが大きくなる中

それでも菊豆と天青は

時々人目を忍んで逢引きをする

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それが天白の友だちの間でも話題となり

天白は荒れていく

物語の不穏な行方を体現する

息子・天白の存在

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何の因果か

異様な勘を働かせながら

いつしか実の父親である天青に

憎悪の感情を抱き

挙げ句の果てに

彼を殺害してしまう

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それを見た菊豆は泣き叫びながら

自ら染布に火をつけ

燃え盛る炎の中を

呆然と立ち尽くす…

ふぅ

なんとまあ

恐ろしい展開

不条理なまでの悲劇でしょうか

しかし

得体の知れない天白の行動は

よくよく心の奥底で

なんとなく理解できるような…

父でない(⁈)男に母を取られることによる

屈辱のような感情

といったところでしょうか

とまあ

それにしても本作は

全編

力強いショットの連続ですね

閉塞感漂う村社会で

人間の本質的な営みに迫るという

この実存的な眼差し

観る者を釘付けにする

強烈なインパクトです

何はさておいても

主演のコン・リーが

もう素晴らしいの一語です

美しく艶やかであるのみならず

狡猾でしたたかな女の一面まで

様々な顔を余すことなく見せてくれます

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また舞台となる染物屋の

ユニークな造形

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チャン監督の創作だという

物々しくもカラフルな染織り機の

作業工程のディテールの面白さ

赤や黄など

染物の色味にちなんだ

豊穣な映像が

観る者を惑わせます

いやはや

つくづく

チャン・イーモウは

監督3作目にして

早くも代表作を出してしまいましたね

というわけで

『菊豆』

美しくも壮絶な男と女の性を描いた

人間ドラマの傑作

これは必見です

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