映画『恋のエチュード』
1971年のフランス映画
『恋のエチュード』
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監督はフランスを代表する名匠
フランソワ・トリュフォー(1932-1984)
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本作は
トリュフォーの代表作『突然炎のごとく』(1962)の原作者
アンリ・ピエール・ロシェの小説『二人の英国女性と大陸』が原作となっています
彫刻家を夢見るアン、目の悪いミュリエルというイギリス人の美人姉妹と
裕福なフランス人青年クロードが織りなす三角関係
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映画はおよそ15年にわたる
男女3人の繊細で移ろいやすい感情の軌跡を
20世紀初頭のパリを舞台に
当時のクラシカルな衣装や調度品に包まれた美しい映像で
情緒豊かに描き出していきます
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姉妹の故郷であるイギリスの田舎
切り立つ崖に建つ石の家
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紺碧の海が一望できるロケーションの
この目を見張る美しさ
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屋外の自然光で捉えた映像はとにかく見事で
ここで3人がテニスや自転車などに興じながら無為に過ごすシーンが
これがなんとも開放的で
穏やかな時の流れを感じさせて素晴らしい
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また室内では
アンティークなテーブルランプなどによるぼんやりとした光が
奥ゆかしい風情を醸し出しています
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と、こう書くと
古風な文芸ロマンのように思われがちですが
いやいや
なんのなんの
そこは恋愛映画の巨匠、トリュフォーですからね
決して一筋縄ではいきません
劇中、登場人物たちの端正なセリフ回しであったり
頻繁に交わされる手紙のやりとりであったり
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フランス青年クロードのナレーションに基づいて
ドラマが進行していくあたり
表現はかなり文学的なのです
…が
こう
何というんでしょうか
よくよく
慎ましいまでの
エロ
…なんですよね
本作は全編にわたって
2人の姉妹と1人の男の錯綜した感情と情念が渦巻いていて
そこはかとない
男女の生々しい本音が…
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しかし映し出される映像は
あくまで知性、品位を損なわず
ある一定の節度を保っています
ここらへんの絶妙なバランス感覚は
たぶんにトリュフォーのセンスのなせる業で
まあ正直
この〜
ヘンタイ
って感じで
おっと
これ褒め言葉
むしろ最大の賛辞です
くれぐれも誤解のなきよう…
またトリュフォーの分身である
おなじみ、ジャン=ピエール・レオーが
優柔不断なマザコンの優男キャラ全開でして
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そして何より
本作のキーポイントとなる
いわば“抑制された性”を
まんま体現する役どころが
妹のミュリエルです
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幼い頃の性に対するトラウマと
そうした屈折した心情の反動として
男性に対してつい頑なな態度を示してしまう彼女は
キカ・マーカム演じる柔和で明るい姉のアンとまさに対照的な
生真面目で傷つきやすい性格
演じるステイシー・テンデターが
ミステリアスな魅力全開で出色です
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ふと
目を患ってしまうのは
幼少期から抱き続けている性に対する罪悪感
過度な思い入れの表れ
つまりは欲求不満がもたらした副作用で
よくよく
これはまこと文学的な隠喩の表現といえましょうか
ミュリエルが幼い頃の秘事を告白するシーン
観ているこっちも思わずドキッとさせられます
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と
姉の推しもあって
ミュリエルとクロードは互いに想いを寄せ合うも
揺れ動く感情とともにすれ違いが続き
やがてミュリエルは
自身の中に疼く性的な欲求を封じ込めようと
ピューリタンの洗礼を受け、禁欲的な生き方を求めます
一方のクロードは
気鋭の美術評論家として多くの女性と付き合う中で
ふとしたきっかけで彫刻家を志望する姉のアンと再会
2人は自ずと深い関係にはまり込んでいきます
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つくづく
パリで日ごとに垢抜けて美しくなるアンと
クロードへの想いを内に秘め続ける一途で不器用なミュリエルの
この見事な対比
まさに陽と陰
う〜ん
でも僕はつい妹に惹かれちゃうなぁ
そうした中、自由な恋愛を求めクロードと別れたアンが
結核を患い若くしてこの世を去るなど
いろんな紆余曲折の後、出会いから7年の時を経て
クロードとミュリエルはついに
たった一度だけ結ばれます
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満を持して2人が一夜を共にするシーンの
えも言われぬ高揚
画面全体が濃密で張りつめた空気に包まれます
ミュリエルの鬱積した想いが一気に爆発したかのような
苦悶の表情と
そして…
クロードの独白
「幸福感はなかった 甘い感傷もなかった それは終わった…
おびただしい血が流れていた…」
翌朝、ミュリエルはクロードに話します
「私が来たのは、私たちの恋を葬るためよ
私は幸せよ
あなたが処女の私を迎えてくれたから
私は泣かないわ
7年前私の中に恋が生まれた時のように
今度はその恋が死んでいくのよ
私が生きるために…」
いやはや
なんとまあ圧巻の表現
この慎ましくも激しい
豊穣なまでの世界観
というわけで
本作『恋のエチュード』は
男女3人を巡る恋の成就と挫折を鮮烈な描写で映し出した
まさにトリュフォー節炸裂の傑作です
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