映画『暗殺の森』
1970年製作
イタリア・フランス・西ドイツ合作の
『暗殺の森』
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監督・脚本は
後に『ラストエンペラー』で
世界的な巨匠となる
イタリアのベルナルド・ベルトルッチ(1941-2018)
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彼が若干29歳の時の作品にして
う〜ん
この完成度の高さには
目を見張るばかりです
アルベルト・モラヴィアの小説
『孤独な青年』を映像化した本作は
ベルトルッチの
まぎれもない最高傑作といえましょう
…
第二次世界大戦前夜のローマ
幼い頃
性的悪戯をされそうになり
思わずその男を射殺した体験から
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ある種のトラウマに陥り
やがてファシズムへと傾倒し
秘密警察の一員となったマルチェロ
そんな彼に
かつての恩師で
パリ亡命中の反ファシズム運動家
クアドリ教授を調査するよう
指令を受ける
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マルチェロは
婚約者のジュリアと共にパリを訪れ
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クアドリ教授と彼の若妻アンナに接近
が
謎めいた美しいアンナに
マルチェロはたちまち心惹かれ
婚約者そっちのけで
彼女に想いを寄せてしまい
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そうして任務との狭間で
激しく揺れ動くことになる
そんな最中
やがて教授を暗殺するよう
密命が下る…
…
大戦前夜
そこはかとなく漂う
エロティシズムと死の影
ヨーロッパ的退廃
そんな張り詰めた空気が蔓延する
ローマ、パリを舞台に
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映画は
序盤の淡々としたペースから
次第にボルテージを上げ
魅惑のダンスシーンを経て
やがて
ファシズムの狂気が集約した
“暗殺の森”へと行き着きます
と
左右のレベルを意図的にズラし
不安感を助長する
鋭角的な構図や
多用される横移動
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ファシズムの誇張された全体感と
ちっぽけな個人との対比
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総じて
至るところ
光と影
白と黒
陰と陽
静と動
などなどの
鮮烈なコントラストで散りばめられ…
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いやあ
ヴィットリオ・ストラーロの
流麗なカメラワークに酔いしれ
若きベルトルッチの
冴えわたる演出
そのほとばしる才気が
全編にみなぎっています
つくづく
演じる役者たちが
皆素晴らしい
複雑な内面をたたえた
優柔不断なファシスト
マルチェロを演じる
ジャン=ルイ・トランティニャン
陰湿で冷淡で
鋭利な刃のようで
独特の艶がありますね
特に思い詰めた表情が印象的です
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何より
アンナを演じた
ドミニク・サンダが出色です
射るような眼差しが
とにかく魅力的です
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際立つ美しさ
高貴で気品のある佇まいながら
時折、淫らで背徳の香りが漂い
まさに様々な表情を見せてくれます
本作は
もう彼女に負うところ大ですね
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さらには
マルチェロの妻ジュリア役の
ステファニア・サンドレッリが
成金の家柄の軽薄な娘を
美しくリアルに演じています
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政治の謀略の渦中に身を置く夫のマルチェロと
愛欲とファッションに興味が尽きない若妻のジュリア
この相入れない夫婦が
奇妙に絡み合う様の中に
ふと
垣間見えるリアル
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マルチェロが
教授暗殺の実行の時を模索している
とてもナーバスな時に
絶妙の(!)タイミングで
ちょいちょい割って入ってくるジュリア
この空気の読めない
彼女の奇矯な笑い声が
この時代の卑猥なムードを
象徴しているかのようです
そして終盤
教授暗殺の時が迫る中
ジリジリとした焦燥感に駆られるマルチェロの
心のざわめきを掻き乱すかのような
ダンスシーンの華やかな狂騒ぶり
アンナと
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ジュリアの
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2人の女が見せる
妖艶なコンビネーション
映像の端々に漏れ出る
めくるめく官能
人々の好奇の目に晒されながら
そんな周囲の反応を楽しむかのような
挑発的な振る舞い
妖しくも
優雅な美しさに包まれています
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ファシストが暗躍する
異様な時代背景にあって
ひときわ映える二人の存在感
まさに生と死の刹那
色気と狂気が
紙一重で共存しています
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いやあ
この絶妙な節度
ベルトルッチはこの後
『ラストタンゴ・イン・パリ』(1972)をはじめ
エロス全開の作品を
いくつか出すのですが
まあ観ていて
食傷気味になりますね…
映画的抑制
つくづく
これが大事かなと思うところです
って
話が逸れましたが…
ダンスはやがて群舞へと移行
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次第に
マルチェロは
そこに人間性の表出を垣間見
ファシズムに対する違和感を覚え
冷徹な表情の奥底に眠る
自身の本音との葛藤に悩みます
が
しかし
やがて
決行の時を迎えます
雪の降り積もった深い森での
教授暗殺の一部始終を捉えた
この底冷えする恐ろしさ
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ファシストたちが
次々と森の中から現れては
教授に襲いかかる
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そして
次なる標的となり逃げまどうアンナ
ふと車中のマルチェロを見つけ
必死で助けを求めるも
彼は車の窓を閉め切り
見殺しにする
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やがてアンナは
叫び声とともに
顔面血まみれとなって
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無惨な姿で息絶える…
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優美なダンスシーンの後に
唐突に訪れた
残酷な殺害シーン
このあまりに激しい落差に
えも言われぬ戦慄を覚えます
アンナの悲痛の顔が
いつまでも脳裏に焼きつきます
これが愛を誓い合ったアンナへの仕打ちか
任務を全うしたに過ぎないと
自分に言い聞かせつつ
しかし想いを寄せた女性を
裏切ったことに対する
自己嫌悪に苛まれる…
やがて時勢が移り変わり
ムッソリーニ失脚に伴って
ファシストは追われる身となり
程なくして
マルチェロは自我が崩壊
かつての仲間を
ファシストだと告発してまわり
夜の街を彷徨い歩く…
日和見主義の男が辿る惨めな末路
浮かび上がる
ファシズムの欺瞞と卑劣
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ふぅ
なんという
鮮烈な映像表現でしょうか
この不穏にして魅惑の世界観に
感情の昂りを抑えることができません
というわけで
『暗殺の森』
つくづく
すごい映画
ベルトルッチが放った
まこと恐るべき傑作です
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