映画『海辺の一日』

待望の鑑賞です

1983年の台湾映画

『海辺の一日』

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監督は僕のお気に入り

台湾が生んだ天才

エドワード・ヤン(楊徳昌、1947-2007)

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本作は

ヤンの記念すべき長編監督第一作で

台湾ニューシネマ最初期に位置づけられる重要な一本です

2人の女性の会話を起点にして

近代化する台湾社会に

にわかに宿る精神的危機を

重奏的に浮かび上がらせた

167分に及ぶ異色のドラマです

…

海外で活躍するピアニスト蔚青(ウェイチン)が

13年ぶりに台湾に帰国する

彼女はかつての恋人の妹・佳莉(ジャーリィ)と再会し

互いに昔の思い出を語り合うが

二人の話は次第に

佳莉の結婚生活と

夫が海辺で失踪した事件へと移っていく…

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地方の医師の家に生まれた佳莉は

強い家父長制の家庭で育つ

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父は子どもたちの人生や結婚にまで干渉し

佳莉の兄・佳森(ジャーセン)は蔚青を愛していたが

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父親の決めた結婚を拒むことができず

結果、二人の恋愛は破綻する

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そんな兄の姿を見ていた佳莉は

父親に人生を決められることに反発し

父の意向に沿った縁談を拒否

自ら愛した徳偉(ドゥウェイ)との結婚を選び

実家を出ることになる

しかし自由意志で決めた結婚生活は

彼女の期待したようにはいかなかった…

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夫の徳偉が企業で出世し

豊かな生活を享受するものの

夫の仕事への没頭、会社での人間関係、女性問題などが重なり

夫婦の間には次第に距離が生まれる

自分で選んだ結婚であるにもかかわらず

日増しに孤独と空虚さを感じるようになっていく

父親の支配から逃れるために選んだ自由は

必ずしも幸福をもたらさない…

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そんなある日

徳偉が突然姿を消す

海辺には彼の所持品が残され

警察は水死の可能性を調べる

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一方で会社の金銭問題や

海外への渡航に関する情報も浮かび上がる

徳偉は自殺したのか

それとも

意図的に姿を消したのか

真相はついぞ明かされず

途方に暮れる佳莉

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…

映画は

台湾の近代化と

それによって相対的にもたらされる

家族制度の崩壊を

冷静に見つめます

これは日本もそうですが

特には地方における

伝統的な家族のあり方は

父親が一家の中心にいて

子どもの結婚や職業は

父親の意向が大きく影響します

しかし本作に見るように

1980年代の台湾において

急速な経済発展と都市化が進むことで

自ずと若者は

自分で仕事や結婚相手を選ぶようになります

これは男性のみならず

女性も少なからぬ自由意志が

尊重されるようになってきます

しかし

果たして

伝統は悪であり

自由は善であるのか

映画は問いかけます

自由を獲得することと

幸福を獲得することは

別問題なのではないか、と

新しい社会=資本主義社会のあり方は

仕事と経済的成功が生活の中心になります

と同時に

それによる負荷は

様々なところに及びます

夫婦間のコミュニケーションの断絶

個人の自由が広がる一方で深まる孤独感

総じて精神的充足感の欠乏…

本作における

佳莉の夫・徳偉は

この新しい社会の価値観を体現する人物で

経済的には成功しても

私生活では大切なものを失っていき

本人も現状を打開できず

もがき苦しみます

そうして

ある日、失踪してしまうのです

エドワード・ヤンは

台湾の近代化を

単なる豊かさの獲得として描かず

その裏側に潜み

やがて顕在化していく人間関係の変質を

静かに見つめ続けます

さらに

佳莉と徳偉は

長い間一緒に生活してきましたが

彼女は

夫が何を考え

何に苦しんでいて

なぜ失踪したのかを

夫婦であるにもかかわらず

実際のところ

理解することができません

人間はどこまでも曖昧で不確かな存在

互いを分かり合うことの難しさを

映画ははからずも露呈させます

う〜ん

まるでアントニオーニの世界ですね…

そして

本作を貫くテーマ

それは徳偉の失踪に至る経緯を通して

佳莉の女性としての自立を描いている点です

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彼女は父親に逆らい

自らの意思で結婚したものの

夫との溝が日増しに大きくなり

自分がどう生きるべきか苦悩します

自分は何者なのか

徳偉の妻である他に何があるのか

映画は

佳莉が抱く精神的危機を

丹念に描き出します

それでも彼女は前を向いて生きていく…

現代の台湾を生きる女性を捉えた

象徴的なラストです

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佳莉役のシルヴィア・チャンが

幅広い年齢層の女性を

等身大でリアルに演じていて

見事ですね

とまあ

そんなこんな

回想形式による物語構成の妙

都市と人間の対比

海辺に漂う空虚感

深い人間洞察に基づいた堂々たる演出

長編第一作にして

この完成度

いやあ

まこと見応え充分です

というわけで

『海辺の一日』

ヤンの伝説の始まりともいえる

人間ドラマの力作

あらためて

これは必見です

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おまけ

エドワード・ヤンの作品について

以前書いた記事です

◎『恐怖分子』→こちら

◎『牯嶺街少年殺人事件』→こちら

◎『恋愛時代』→こちら

◎『カップルズ』→こちら

◎『ヤンヤン 夏の想い出』→こちら

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