映画『アンダーグラウンド』

今年1月に惜しまれつつ閉館した

渋谷の単館シアター「シネマライズ」

1986年の開館以来

実に30年もの間

ミニシアターならではの

アートでマニアックな映画を上映し続けてきました

しかし近年は

主流であるシネコンの波に呑まれ

ミニシアターは年々採算の確保が難しくなっているようです

う~ん

作品そのものの質量の低下とは

僕はあまり思えず

まあ映画そのものに対する位置づけの変化

人々のライフスタイルや嗜好性の多様化の

これはまぎれもない結果で

つまるところ

ミニシアターで映画を観る時代じゃなくなった

なんだか

まるでうちの業界

特には小規模が主体の

僕ら中小ホールのことを言っているようで

くぅ~

いやいや

やっぱり

時代の波に逆らっても

ミニシアターの灯を消してはならん

とあらためて強く思う次第です

それはそうと

この渋谷のシネマライズ

昔はここでよく観たなぁ

僕がちょうど20代の頃

1990年代が

このシアターの全盛期だったように思いますね

おそらく

シネマライズにおける歴代最大のヒット作は

『トレインスポッティング』(1996)

『アメリ』(2001)でしょうね

当時の若者たちの心を捉えて離さず

ちょっとしたムーブメントを起こしましたよね

まあ

僕は周りが騒げば引いてしまうたちなので

こういうのはよう認めませんがね

過去に僕がここで観た

印象に残ってる映画を挙げますと

カラックスが執念で完成させた力作

『ポンヌフの恋人』(1991)

タランティーノの鮮烈なデビュー作

『レザボア・ドッグス』(1992)

あるいは

サントの異色作

『カウガール・ブルース』(1994)

ジンガロの座長バルタバスが監督した曲馬の物語

『ジェリコー・マゼッパ伝説』(1995)

コーエン兄弟の実力を世に知らしめた

『ファーゴ』(1996)

などなど

どれも面白かったなぁ

あらためて

そんな粒揃いのシネマライズの作品群の中で

僕が最も衝撃を受けた映画が

1996年に観た

『アンダーグラウンド』です

↓↓↓

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監督は旧ユーゴスラビアのサラエボ出身の鬼才

エミール・クストリッツァ

↓↓↓

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天才肌でまあパンクな人です

本作の上映時間は怒涛の171

って

なかなかの長尺にもかかわらず

なんと

僕はこの映画を

当時2回も観に行ってしまいました

いやあ

つくづく

これほどパワフルでエネルギーに満ちた映画が

他にありましょうか

本作は

旧ユーゴスラビアの50年にわたる悲劇の歴史を

荒唐無稽なファンタジーとして紡いだ寓話

いわば映像叙事詩です

冒頭から

画面全体を所狭しと駆け巡る

ジプシーの楽隊による

哀愁を帯びた音楽が

けたたましく鳴り響き

観ているこっちは思わず面食らうと同時に

その強烈な磁力に

ついつい引き込まれてしまいます

↓↓↓

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1941

戦禍のベオグラードでナチスの迫害を逃れるため地下に潜伏し

そこで50年もの間

武器商人に騙され

戦争が終わったことも知らず

武器を作り続ける人々

チトーの共産主義の時代を経て

50年後の1991

アンダーグラウンドから地上へ出た人々が目にした

失われた祖国ユーゴスラビアの現実

繰り返される旧ユーゴの内戦と混乱

映画は

裏切りと怒り、哀しみに満ちた

この旧ユーゴが辿った悲劇の歴史を

ふき飛ばすかのように

終始ジプシーの民族音楽を鳴り響かせ

↓↓↓

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そして人々は踊り続けます

↓↓↓

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う~ん

このアナーキーで破壊的なまでのパワー

閉ざされた地下の世界は

むしろ開放的で想像力に溢れ

そこに生きる人々は

どこまでも狂騒的でたくましく

役者たちの演劇的ですらある過剰な演技に

ほとほと満腹感を覚えつつも

その強引なストーリー展開と勢いに押しまくられ

気がつくと

そのアンダーグラウンドな世界に埋没し

どっぷりと身を寄せている自分がいたりします

ふと

つくづく

民族紛争の不条理と悲哀が

僕の出自である

朝鮮民族の現代史と

どことなく重なるところがあって

この映画は

やや感傷気味になっていた当時の僕の心情に

少なからずフィットしたのかもしれません

観ていて知らず知らずのうちに

自己投影していましたね

でも映画のトーンは

感傷的どころか

むしろ

どこまでも楽天的、祝祭的で

まあそこらへんのあっけらかんとしたノー天気加減も

朝鮮民族の気質とダブるところがあって

なんとも親近感を覚えたと言いますか

正直密かに

熱狂しちゃったわけです

現実と幻想が渾然一体となった

まさに本作の世界観を象徴する

地下における結婚式のシーン

シャガールの絵を彷彿させるように

花嫁がふわふわと宙を漂い始めます

↓↓↓

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洋の東西を問わず

冠婚葬祭はその国の文化を表す

最たるものですね

ラスト

ドナウ河に面した小さな半島で

憎しみ合って死んだり散り散りになった登場人物たちが一堂に会し

互いに許し合い

そうして皆で結構式の宴を楽しみます

↓↓↓

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やがて人々を乗せたその小さな島は

陸をどんどん離れ

それでも人々は

どこまでも踊り続ける

↓↓↓

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う~ん

あらためて

すごい映画だったなぁ

映画の持つ底知れぬパワー

秘めた可能性

クストリッツァの放った

この破壊と創造の産物に

当時20代だった僕は

ほとほと打ちのめされ

そして魅了された次第です

というわけで

シネマライズでの懐かしい思い出でした

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