映画『エレファント・マン』

映画評です

1980年製作

デヴィッド・リンチ監督の

『エレファント・マン』

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19世紀のイギリスを舞台に

生まれながらにして奇病に侵され

見世物小屋で

エレファント・マンと呼ばれた実在の男

ジョン・メリックの半生を描いた物語です

いやあ

まず有名な映画ですね

監督のリンチは

当時弱冠33

この作品で一躍世界にその名を知らしめます

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この作品の最大の肝

それはあまりにも衝撃的な

エレファント・マンこと

メリックの容貌です

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それにしましても

う~ん

怖ろしい姿です

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特殊メイクを施した

この醜い容姿の造形は

たぶんにリンチの創造によるものと思っていましたが

モデルとなった実在の人物の写真をネットで見て

ビックリしました

劇中のメイクは実在の姿を

忠実に再現していることがわかりました

一体どうして

こんなことになってしまったのでしょうか

原因は定かではありませんが

症状は神経繊維腫症の一種で

体の至る所に腫瘍が生じ

そして

皮膚の大部分と

頭蓋骨をはじめとする骨格が

膨張と変形をきたすという病気だそうです

気管支炎も患っていて

頭部の重さから

仰向けに寝ると窒息してしまい

劇中でもそうでしたが

実在のモデルも

死因は仰向けによる窒息死となっています

メリックが生きた時代は

資本主義が勃興する19世紀後半

ビクトリア朝時代のイギリス

映画は

そんな工業化の進むロンドンを

深いモノクロの陰影でとらえ

クラシカルなムードを醸成しつつ

どこまでも無機質なイメージで覆います

配管から出るもうもうたる煙

機関車の蒸気

ピストンによる一定のリズム

機械化による画一性、同質のイメージ

そして

個性よりもむしろ

伝統や格式が重んじられる英国社会

う~ん

そんな時代背景の中にあっての

このいびつで特異な容貌の男です

唐突に

画面に漂う

リンチ特有の不穏な空気感

響きわたる重低音

象の叫び

赤ん坊の泣き声

メリックという存在は

構図的には

機械化

没個性

見事な対を成しています

いつの時代もそうですが

なおさら人々は

彼を異端として排斥します

しかしメリックは

その怪異な容姿とは裏腹の

確かな知性と

純粋無垢な精神の持ち主でした

見世物小屋で動物扱いされ

人々の嘲りの対象となりながらも

医師らの助力もあって

次第に人間性を取り戻していきます

そしてあらためて

この異形の男が放つ磁力

彼の周辺に絶えずうごめく

好奇や偏見、同情、偽善

この映画は

まさに彼を取り巻く

周囲の人々の反応

当時のイギリス社会に根深くあった

富裕層と貧困層のみならず

観る側の僕らも含めて

いわば良心が試されているような気がしてなりません

では当の作り手である

監督のリンチはどうなんでしょうか?

といいますのも

この映画が世界的にヒットした要因は

涙を誘う、そのヒューマンなストーリーにあったものの

僕はこの映画は

そんなお涙頂戴の映画なんかでは

決してないと思っているからです

ヒューマニズムの要素は

あくまで表面的なものに過ぎず

もっと奥深くに沈殿している

リンチの真意

それは

こうした

異形

フリークスに対する

愛着や親しみを超えたところの

ある種の

偏愛

のような感情にこそあるのではないかと

僕は推察します

リンチの中には

好奇や興味も少なからずあったでしょう

しかしこの映画の純度は

リンチの主人公に対する

思い入れの強さの表れに他なりません

つまりは

醜悪であればあるほど

むしろ

美しい

と思う特異な感性

さらにはそこに

神々しさすら見出す

稀有な視点です

そこにこそ

作家リンチの本性を

垣間見ることができるのかなと思います

前作『イレイザー・へッド』にも相通ずるところがありますね

とまあ

とにかく

異才リンチが放つ世界観

エレファント・マンと呼ばれた男の

美しく切ない旋律で奏でられた

残酷な物語

今さらながら

傑作です

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  1. いつもながら、スピード感のある文章に興奮して、最後まで一気読みしてしまいます。どうしてこんなに生き生きとした文章が書けるのでしょうか。そしてその観察視点はさすがです。
    今回もありがとうございました。

  2. チョー!

    >(株)第二営業部 教授さん
    コメントありがとうございます!
    大変恐縮です…(*^_^*)。