映画『次の朝は他人』

2011年公開の韓国映画

『次の朝は他人』

↓↓↓

blog_import_64430a9387765.jpg

監督は韓国でもひときわ異彩を放つ存在の

ホン・サンス(1960-)

作品はどれも似たような内容のものですが

スルメみたいに観れば観るほど味が出る

クセになる監督ですね

Amazonプライムで

ホン監督作品を

なんと3本も観ることができて

どれも面白かったなぁ

今回ご紹介の映画は

その中の一本で

ひとりの映画監督が

冬のソウルで過ごす数日間を

モノクロ映像で

淡々とユーモラスに綴った佳作です

↓↓↓

blog_import_64430a9521300.jpg

先輩のヨンホに会うため

地方からソウルにやって来た映画監督ソンジュンは

ヨンホと連絡が取れずひとり街を散策し

酔った勢いでかつての恋人キョンジンを訪ね

一夜を共にする

翌日ヨンホと会ったソンジュンは

共に入ったバーで

キョンジンに瓜二つのオーナーを見かけ

たちまち心奪われる

とまあ

なんともたわいもない話で

映画は特段の高揚をもたらさない

冗長で緩慢なテンポで

終始ダラダラと続いていきます

が観ていて

なんとも心地よく感じられるんですよね

つくづく人物たちが交わす会話の内容

それ自体はどうでもよかったりするのに

生き生きと血が通っていて

次第に目が離せなくなる不思議

登場人物たちは皆どこか

人生に対する諦念や疲れを滲ませていて

それが必ずといっていいほど

酒を飲んだ時にあらわになり

ホン・サンスの映画は

酒を飲む場面がホントに多いのですが

チャミスルをまあ美味しそうに飲むんですよね

それと皆タバコをプカプカとよく吸う

今観るとかなりの違和感を覚えます

そうした主人公が醸し出す風情や

彼を取り巻く友人たち

ソウルの古い街並みが

美しいモノクロの映像と相まって

なんとも懐かしく感じられ

まるで70年代の時代設定のような

レトロなムードが全編を覆っています

しっかし主人公の男は

皆一様にグダグダと酒ばかり飲んで

うだつの上がらないダメ男で

(僕の知っている在日の先輩によく似ています)

でもどういうわけか

美女たちにモテるんだよな

プレイボーイともちょっと違う

女にだらしない浮気性の男

まあ

映画監督という設定が多い主人公は

もちろんホン監督自身を投影していて

そんな主人公が女性にモテるのは

たぶんに自己願望の表れで

とかく難解と言われる作風ながら

その実

監督のいたって正直な心情のこれ表出かもしれませんね

それはそうと本作を観ていて

ふと奇妙な違和感に包まれます

ソンジュンがソウルに滞在している間

先輩のヨンホと連夜「小説」という名のバーに行くのですが

そのつど店主のママが

あたかも初めて会ったかのような対応を見せるのです

↓↓↓

blog_import_64430a96a4093.jpg

あれっ

そうか

このくだりは

もしかしたら連夜という時間軸ではな

単なるシチュエーションの反復かもしれず

そこらへんはにわかに判別できませんね

劇中でソンジュンが語る

偶然に対するある見解が

映画の中で繰り返し証明され

さらには

映画の冒頭と終わりがつながるような

円環構造を錯覚させる要素も

多分にほのめかされていて

さながらソウルという街

男と女という断ち切り難い鎖の迷宮の中に

自ずと閉じ込められているような

そんな不条理な感覚を抱きます

つまりこれは

偶然からなる男女の出会いと別れを通して

物語を異化解体し

脱構築しようとする試みと言えましょうか

時間の概念がおよそ希薄で

現実味のない異空間のような情緒を

モノクロで捉えた冬のソウルが

無言のうちに醸成します

↓↓↓

blog_import_64430a98304d2.jpg

そして次第に浮かび上がってくる

人々のその存在の曖昧さと

実存的なまでに人間味が刻印された

存在の確かさとの

この

ある種のせめぎ合いです

激しく揺れ動く心

移ろいやすい感情

まあ浮気心といってしまえばそれまでで

でも人が人に惹かれていくのは

これ自然な感情で

本作はそうした

コロコロと移り変わる本音を

日常の何気ないやりとりの中でさりげなく

しかし確かな熱を帯びたリアリティをもって捉えてみせます

雪の舞う夜のソウルでの

衝動的なキスシーンの美しいこと

↓↓↓

blog_import_64430a998325a.jpg

3日目なのか

ソンジュンは皆が帰った後

バーのママと一夜を共にし愛を誓い合うが

翌朝

ふたりはもう会わないという約束をして別れます

パズルの断片をかき集めて

無造作に組み合わせたかのごとき

重層的で示唆に富んだ構造

全体を俯瞰した時

にわかに浮かび上がってくる

男女の不条理なあり様

いやあ

なんとまあ

理知的で不可思議な世界観でしょうか

ホン・サンスの映画は

その作風がいろんな監督と比較されることが多いのですが

よくよく本作は

小津のミニマムで規則正しい反復と

意図的なずらしを想起させ

またジム・ジャームッシュの

初期の作品に漂うオフビートな空気感

さらには哲学的で難解な問いを

軽妙な男女の会話を通して描き出した

70年代の頃のウディ・アレン

はたまた

男女のリアルな恋の駆け引きを

自由気ままに表現したロメール

何より映画の形式性を追求し

映像と音の多元的な組み合わせによって

意識の変容を試みたゴダール

などなどを自ずと彷彿させましょうか

というわけで

あらためて本作『次の朝は他人』は

バラバラに解体された偶然という名の断片を

鮮やかに切りとって見せた

鬼才ホン・サンスの野心的な傑作です

ホン監督の近年の映画は

僕も全然観てませんで

これは今後要チェックですね

ちなみにAmazonプライムで観れるのは

他に以下の2

◎『よく知りもしないくせに』(2009)

◎『ハハハ』(2010)

そしてなんといっても傑作なのがこれ

◎『気まぐれな唇』(2002)

◎『アバンチュールはパリで』(2008)

どれも大差ない内容ながら

ベタッとゆるい感じが最高で

男女の気まぐれな心情

赤裸々な本音が垣間見れる意欲作です

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。