映画『次の朝は他人』
2011年公開の韓国映画
『次の朝は他人』
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監督は韓国でもひときわ異彩を放つ存在の
ホン・サンス(1960-)
作品はどれも似たような内容のものですが
スルメみたいに観れば観るほど味が出る
クセになる監督ですね
と
Amazonプライムで
ホン監督作品を
なんと3本も観ることができて
どれも面白かったなぁ
今回ご紹介の映画は
その中の一本で
ひとりの映画監督が
冬のソウルで過ごす数日間を
モノクロ映像で
淡々とユーモラスに綴った佳作です
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先輩のヨンホに会うため
地方からソウルにやって来た映画監督ソンジュンは
ヨンホと連絡が取れずひとり街を散策し
酔った勢いでかつての恋人キョンジンを訪ね
一夜を共にする
翌日ヨンホと会ったソンジュンは
共に入ったバーで
キョンジンに瓜二つのオーナーを見かけ
たちまち心奪われる…
とまあ
なんともたわいもない話で
映画は特段の高揚をもたらさない
冗長で緩慢なテンポで
終始ダラダラと続いていきます
…が観ていて
なんとも心地よく感じられるんですよね
つくづく人物たちが交わす会話の内容
それ自体はどうでもよかったりするのに
生き生きと血が通っていて
次第に目が離せなくなる不思議
登場人物たちは皆どこか
人生に対する諦念や疲れを滲ませていて
それが必ずといっていいほど
酒を飲んだ時にあらわになり…
ホン・サンスの映画は
酒を飲む場面がホントに多いのですが
チャミスルをまあ美味しそうに飲むんですよね
それと皆タバコをプカプカとよく吸う
今観るとかなりの違和感を覚えます
そうした主人公が醸し出す風情や
彼を取り巻く友人たち
ソウルの古い街並みが
美しいモノクロの映像と相まって
なんとも懐かしく感じられ
まるで70年代の時代設定のような
レトロなムードが全編を覆っています
しっかし主人公の男は
皆一様にグダグダと酒ばかり飲んで
うだつの上がらないダメ男で
(僕の知っている在日の先輩によく似ています)
でもどういうわけか
美女たちにモテるんだよな…
プレイボーイともちょっと違う
女にだらしない浮気性の男
まあ
映画監督という設定が多い主人公は
もちろんホン監督自身を投影していて
そんな主人公が女性にモテるのは
たぶんに自己願望の表れで
とかく難解と言われる作風ながら
その実
監督のいたって正直な心情のこれ表出かもしれませんね
それはそうと本作を観ていて
ふと奇妙な違和感に包まれます
ソンジュンがソウルに滞在している間
先輩のヨンホと連夜「小説」という名のバーに行くのですが
そのつど店主のママが
あたかも初めて会ったかのような対応を見せるのです
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あれっ
そうか
このくだりは
もしかしたら“連夜”という時間軸ではなく
単なるシチュエーションの反復かもしれず
そこらへんはにわかに判別できませんね
劇中でソンジュンが語る
“偶然”に対するある見解が
映画の中で繰り返し証明され
さらには
映画の冒頭と終わりがつながるような
円環構造を錯覚させる要素も
多分にほのめかされていて
さながらソウルという街
男と女という断ち切り難い鎖の迷宮の中に
自ずと閉じ込められているような
そんな不条理な感覚を抱きます
つまりこれは
偶然からなる男女の出会いと別れを通して
物語を異化解体し
脱構築しようとする試みと言えましょうか
時間の概念がおよそ希薄で
現実味のない異空間のような情緒を
モノクロで捉えた冬のソウルが
無言のうちに醸成します
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そして次第に浮かび上がってくる
人々のその存在の曖昧さと
実存的なまでに人間味が刻印された
存在の確かさとの
この
ある種のせめぎ合いです
激しく揺れ動く心
移ろいやすい感情
まあ浮気心といってしまえばそれまでで
でも人が人に惹かれていくのは
これ自然な感情で
本作はそうした
コロコロと移り変わる本音を
日常の何気ないやりとりの中でさりげなく
しかし確かな熱を帯びたリアリティをもって捉えてみせます
雪の舞う夜のソウルでの
衝動的なキスシーンの美しいこと
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3日目なのか
ソンジュンは皆が帰った後
バーのママと一夜を共にし愛を誓い合うが
翌朝
ふたりはもう会わないという約束をして別れます…
パズルの断片をかき集めて
無造作に組み合わせたかのごとき
重層的で示唆に富んだ構造
全体を俯瞰した時
にわかに浮かび上がってくる
男女の不条理なあり様
いやあ
なんとまあ
理知的で不可思議な世界観でしょうか
ホン・サンスの映画は
その作風がいろんな監督と比較されることが多いのですが
よくよく本作は
小津のミニマムで規則正しい反復と
意図的なずらしを想起させ
またジム・ジャームッシュの
初期の作品に漂うオフビートな空気感
さらには哲学的で難解な問いを
軽妙な男女の会話を通して描き出した
70年代の頃のウディ・アレン
はたまた
男女のリアルな恋の駆け引きを
自由気ままに表現したロメール
何より映画の形式性を追求し
映像と音の多元的な組み合わせによって
意識の変容を試みたゴダール
などなどを自ずと彷彿させましょうか
というわけで
あらためて本作『次の朝は他人』は
バラバラに解体された“偶然”という名の断片を
鮮やかに切りとって見せた
鬼才ホン・サンスの野心的な傑作です
と
ホン監督の近年の映画は
僕も全然観てませんで
これは今後要チェックですね
ちなみにAmazonプライムで観れるのは
他に以下の2本
◎『よく知りもしないくせに』(2009)
◎『ハハハ』(2010)
そしてなんといっても傑作なのがこれ
◎『気まぐれな唇』(2002)
◎『アバンチュールはパリで』(2008)
どれも大差ない内容ながら
ベタッとゆるい感じが最高で
男女の気まぐれな心情
赤裸々な本音が垣間見れる意欲作です
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