映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』

2007年のアメリカ
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』
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監督・脚本は
ポール・トーマス・アンダーソン(1970-)
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ただいま最新作
『ワン・バトル・アフター・アナザー』が
絶賛公開中の
アメリカを代表する鬼才です
本作は
ダニエル・デイ=ルイスを主演に迎え
石油を掘り当てた男の
欲望と裏切りにまみれた孤独な生き様を
重厚な映像の中に映し出した一大叙事詩です
…
20世紀初頭のカリフォルニア
山師のダニエル・プレインヴューは
ある山で金を掘り当てる
しかし彼の事業意欲は
これにとどまらない
石油があるとされる西部の小さな町を
息子とともに訪れ
石油を探り当てるや
地主から採掘権を買取り
周辺の土地を買収
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町の人々を説得して
石油の掘削を開始し
意図した通り掘り当て
一攫千金の夢を叶える
そんなプレインヴューだが
富と権力が増大するにつれ
次第に猜疑心に囚われ独善的になり
息子のH.W.をはじめ
近しい者をも遠ざけるようになっていく…
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冒頭
ひとり黙々と穴に閉じこもって
作業に明け暮れるプレインヴュー
途中、はしごから転落し足の骨を折りながらも
彼は穴の底で金を発掘する
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その一部始終をセリフなしで
カメラは淡々と凝視します
この臨場感
張り詰めた空気
もう掴みOKですね
と
果てしなく広がる荒涼たる平地
緻密なディテールが生む
リアルで生々しい石油掘削の現場
地下に眠る石油が
油井のやぐらを突き破り
やがて火柱となって燃え盛ります
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この事故で
聴力を失う幼い息子
自ずと
物語の不穏な行末を
観る者に予感させます…
立ち昇る黒雲
石油を浴びて
真っ黒になった男たちのシルエットが
どこか美しい
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延々燃え盛る炎を
黙って見守る他ない男たち
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大自然や炎と
ちっぽけな人間との
鮮やかな対比
つくづく
この一連のシーンの
目の覚めるような映像
地鳴りのように響き渡る音楽
極端に少ないセリフ
奇をてらわないシンプルさで対象に肉薄する
堂々たる演出
う〜ん
なんという迫力でしょうか
シネマスコープによる横長のワイド画面が
物語にたしかな深みを宿し
映画は
神話的なアメリカ開拓時代の
ロマンティシズムとリアリズムの両極を
フィルムに刻印します
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顔に刻まれた深い皺
石油屋と称する男の
金への妄執
資本主義の権化のような佇まい
他人を蹴散らし
のし上がっていけばいくほど
人が離れていく
息子でさえも…
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ふと
映画は
プレインヴューの内面を掘り下げたり
生活の様子を過度に映し出すことはしません
そこは大胆に省略し
冒頭のシーンからそうですが
あくまで
男の言動の断片
いわば状況描写に終始します
あるいくつかの
象徴的な出来事のディテールを通して
本質を語る
というスタイルをとっています
つくづく観ていて
プレインヴューの無骨な佇まい
際立つ存在感から
彼のエゴイズム
そして孤独な心情が
ほのかに立ち上がってきます
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また本作で
とりわけ異彩を放つのが
若き牧師のイーライです
この地で啓蒙活動をし
自分の教会を建てることを目論む彼は
プレインヴューと度々衝突するも
互いの利害を優先させて上手に立ち回ります
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土地を取得するため
イーライの教会で洗礼を受け
屈辱的な言葉とともに
皆の前で懺悔させられるプレインヴュー
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このイーライの底知れぬしたたかさ
エキセントリックなアジテーションで
住民の感情を煽る異様
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よくよく
プレインヴューとイーライの2人は
アメリカ西部開拓時代において
勃興してまもない資本主義に毒された
俗物のような存在で
まさにコインの表と裏といえましょうか
そんな先行きの読めない
スリリングな展開が続く中で
映画は
象徴的なラストを迎えます
孤独の中に埋没するプレインヴューの豪邸に
金の無心に現れたイーライ
室内ボーリングレーンでの
2人の火花散らす応酬
過去の確執が再燃し
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挙句、プレインヴューは
ボーリングのピンでイーライを撲殺…
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映画は
悲壮感漂う不吉な音色とともに
狂気を帯びたプレインヴューの
この先の破滅を暗示させて
唐突に終わりを告げます
ふぅ
この状況描写の
なんとまあ
圧倒的な迫真力
戦慄の幕切れでしょうか
そんなこんな
いやあ
もう全編
ダニエル・デイ=ルイスの
ほぼ独壇場ですね
特異な人物造形
渦巻く欲望と憎悪
こうした負の感情を一身に体現する
まさに圧巻の名演です
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対するイーライ役のポール・ダノも
不気味な存在感を放っていて出色でした
何にしましても
ポール・トーマス・アンダーソンの
大胆にして繊細な演出の妙
その卓越した映像センスに
あらためて脱帽ですね
というわけで
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』
どす黒い血と石油に覆われた
骨太の人間ドラマ
これは傑作です










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