映画『ラ・ジュテ』
1962年製作のフランス映画
『ラ・ジュテ』
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監督・脚本・撮影は
フランスの異才
クリス・マルケル(1921-2012)
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マルケルは
ヌーヴェルヴァーグの時代
ゴダールやトリュフォーら
“カイエ・デュ・シネマ派”の向こうを張る
“セーヌ左岸派”のひとりとして
作家、写真家、批評家など
様々なジャンルを横断した映画作家で
ドラマ、ドキュメンタリーを問わず
定型に収まらない自由な作風と
詩情あふれる世界観で
唯一無二の存在感を発揮した
伝説のマルチクリエイターです
学生時代に哲学を学んだマルケルは
第二次世界大戦中は抵抗運動に参加し
左翼思想に傾倒
戦後、執筆活動を本格的に開始し
1950年代にはユネスコの職員として世界を旅し
やがて映画を撮り始めるのです
ということで
本作『ラ・ジュテ』は
上映時間わずか28分のSF短編映画ながら
彼の特異な才能が見事に開花した野心作です
この映画が
数多くのクリエイターたちに与えた影響は計り知れません
特筆すべきは
通常どおり撮影したフィルムを
ストップモーション処理したスチール写真のモンタージュで構成するという
「フォトロマン」と呼称される
その実験的で独創的な手法にあります
また根源的な音楽
印象的な効果音や囁き声
深淵なナレーションと相まって
映画は
静止したモノクロ写真の連続が織りなす
一種独特の緊迫感とダークなムードを孕み
同時に
意識の奥底に染み込んでいくような
どこか懐かしい感覚を
観る者に呼び覚ませてくれます
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男が少年だった頃のこと
ある空港の送迎台で
ひとりの女性と
男性が倒れている記憶が
いつまでも脳裏に残っている
やがて第三次世界大戦が起き
パリは核に包まれ崩壊する
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生き残った人々は
放射能により地下にしか住めなくなる
そうした中
勝利者が地下を支配する
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科学者たちが
未来から世界を救う手立てを得るべく
タイムトラベルの装置を開発
負担の大きい被験者には
想像力が強く
過去に囚われている男が適しているとして
空港での記憶が頭から離れない男が選ばれ
そうして彼はまず実験として
過去へとタイムトラベルさせられる
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と
平和な時代の美しいイメージの数々
そこで男は
幼い頃に空港で見た女性と出会う
実験を繰り返す度に
彼女とのひと時を過ごし
やがて二人は恋に落ちる…
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そんな折
程なくして実験は成功
未来人から世界を救う術をもらう
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役割を終えた男は
過去に生きることを望み
タイムトラベルで過去へと逃れる
だがやってきたあの空港の送迎台で
女性を見つけ
彼女の元へと走り寄ろうとするも
男は追跡者に狙われ
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そうして銃弾を浴び倒れる
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かつての記憶の中で
この送迎台で倒れた男とは自分自身のことで
彼女は
自分が死ぬ間際に見た人だったのだ
…
う〜ん
なんという秀逸なプロット
無二の世界観
あらためて
本作のテーマは
時間と記憶
曖昧な
しかし幸せな記憶の断片が
男が旅する過去への道程の端々に散りばめられます
それは子供の顔や美しい川だったり
あるいは彫像や剥製だったりします
絶望の中で
つかの間取り戻す人間性
何より彼女との穏やかで満ち足りた日々
つくづく
写真が物語る雄弁さを実感し
自ずと想像力が喚起されるのを覚えます
そして
全編、静止画の連続という構成の中で
1ヶ所だけ動くシーンがあり
思わずハッとさせられます
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ゆっくりと溶け合う記憶…
なんて美しく
そして切ないのでしょうか
というわけで
本作『ラ・ジュテ』は
観る者にとっても
いつまでも深い余韻に浸ることができるような
鮮烈な静止画のショットで紡がれた
珠玉の一編
いやあ
クリス・マルケルの類まれなるセンスに脱帽させられる
まさに無二の傑作です
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