映画『フェイシズ』

クローズアップで捉えた人物たちの

顔、顔、顔

息づかい、困惑、苦悩

炙り出される感情

剥き出しの生

ありのままの姿

そこに

えも言われぬ美しさを見ます

1968年製作のアメリカ映画

『フェイシズ』

↓↓↓

blog_import_64430d0fea47a.jpg

監督は俳優でもある鬼才

ジョン・カサヴェテス(19291989)

↓↓↓

blog_import_64430d113fedd.jpg

本作は

カサヴェテス本人の自宅を抵当に入れ

そこを映画の舞台にして仲間たちと撮影

スタッフは無償奉仕

自らも俳優業などで稼いだ資金を

すべて撮影につぎ込んで完成させたという

まさに伝説の映画です

本作をもって

「インディペンデント映画」

というジャンルが確立したと言われています

ちなみにカサヴェテスの妻は

本作の高級娼婦役でもひときわ輝きを放つ名女優

ジーナ・ローランズ(1930-)

↓↓↓

blog_import_64430d12899c6.jpg

二人は映画作りの同志として

何よりおしどり夫婦として知られました

↓↓↓

blog_import_64430d13dc331.jpg

倦怠期を迎えた

ある中年実業家の夫婦が辿る精神的な危機

その破綻の様

映画は

彼らが過ごす1日半を

対象に肉薄した接写による眼差しで

象徴的に切り取ってみせます

とまあ

本作は全編にわたって

いい歳した大人たちが酒に酔って

延々馬鹿騒ぎを繰り広げる話でして

しかし

驚くべきは

映し出されたフィルムの

この純度です

↓↓↓

blog_import_64430d1528649.jpg

手持ちカメラの多用によるブレた映像

家の中のライトの光が

人物たちの顔にまぶしく注がれ

聖性すら漂う

自由でエモーショナルな空間が創出されます

↓↓↓

blog_import_64430d166ec93.jpg

これはひとえに

信頼する仲間たちによって醸成された

現場の空気感のなせるわざで

高い熱量の産物です

それにしても皆よく笑う

笑い声も特徴があっていいんですよね

↓↓↓

blog_import_64430d17ba021.jpg

しかし陽気な中にも

時折、そこに感情のひだが垣間見えます

中年夫婦の悲哀

その切ないまでに分かり合えない

男と女のリアル

紛れもなく本作は60年代アメリカの

ある中流家庭の克明な記録ですね

↓↓↓

blog_import_64430d193d8dc.jpg

画面を横溢するほとばしる感情

映し出される豊かで濃密なひととき

同じ純度の高さでも

こうした映像は

たとえばサム・ペキンパーのそれともまた異なる

ある種、インディペンデントな

つまりはアマチュア的な荒削りさを持っていて

そのどこまでもピュアな空気感が

フィルムに克明に焼きつけられています

こうした要素が生まれる最たる要因は

カサヴェテスの持ち味の一つである

即興の演出にありましょうか

彼のフィルムには

おそらくは出たとこ勝負的な

生の味がある

これはジャズの演奏の

スリリングなセッションに限りなく近く

ハラハラとした緊張感と共に

ひとりひとりの目まぐるしく変わる表情を通して

激しく揺れる感情の起伏

背後に見え隠れする本音を垣間見

同時に

役者個人のパーソナリティすらも

否応なくさらけ出される

そんな彼らの

いわば本質を容赦なく捉えて離さない

一瞬のひらめきと高い集中力に基づいた

切れ味鋭い演出が

いやあ

カサヴェテスの真骨頂です

このアプローチは演劇的ではあるのですが

よりリアリティがあって

役者たちは完全に役を生きている

映し出される映像も

ほぼドキュメンタリーを観ているような

迫真のタッチです

↓↓↓

blog_import_64430d1ad2325.jpg

睡眠薬を服用し自殺を図った妻と

彼女を助けるべくあらゆる手を尽くすゆきずりの若者との

このどこまでもリアルなやりとり

↓↓↓

blog_import_64430d1c236ae.jpg

生々しい息づかい

生死を彷徨った末に生還した妻が見せる

苦悶の表情

タバコの煙に包まれた

神々しいまでの二人の風情

観ていて心揺さぶられずにはいられません

↓↓↓

blog_import_64430d1d90c9c.jpg

それはそうと本作は

タイトルがフェイシズだけあって

何せ顔のアップが多用され

最初はブレて揺れ動く映像に戸惑いを覚えますが

↓↓↓

blog_import_64430d1f0b447.jpg

ありのままを生きる役者たちの

生の姿を観ているうちに

そこに確かに息づく

神聖なるインディーの精神を

観ている側も自ずと体感できて

次第に

ピンがきていないザラついた映像それ自体も

不思議と味わい深く感じられ

ああ

今まさに

稀有なアートフィルムを目の当たりにしているんだ

という厳かなまでの心持ちと共に

しみじみと画面に見入る僕がいるんですよね

↓↓↓

blog_import_64430d205d088.jpg

いやあ

フィルムに封じ込められた世界は

まぎれもない真実の姿

というわけで

本作『フェイシズ』は

カサヴェテスの想いと執念が結実した

まさに偉大なる映画です

↓↓↓

blog_import_64430d21c07cf.jpg

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。