映画『ソナチネ』

つくづく

目の前に映し出された沖縄の風景の

なんという美しさ

眩しく照りつける太陽の下

どこまでも青く澄んだ海と真っ白な砂浜で

子供のように無邪気に戯れる男たち

それは時間の概念の希薄な、およそ現実味のない世界

あらゆるところに光が当たっていて影がない

まるで夢の世界

ふと

よくよくここは

もしかしたら死後の世界なのかもしれない

男たちの末路の暗示

つまりは俗にまみれた男たちが夢見た

天国という名の

いわば白昼夢

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映画評です

1993年公開の日本映画

『ソナチネ』

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監督・脚本・編集、そして主演は

ご存じ

北野武(主演はビートたけしの名でクレジット)

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たけしって監督としても才能ありますね

僕は『アウトレイジ』の新作以外、全部観てますが

う〜ん

面白い

まあ中でも

監督4作目となるこの『ソナチネ』が

おそらく最高傑作でしょうね

たけし演じるヤクザの幹部の村川は

組長から沖縄の組の抗争の助っ人をするよう命じられ

舎弟たちと共に沖縄へと出向く

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しかし抗争は激化し事務所を爆破された村川たちは

一時的に海岸沿いの空き家へと身を隠すことになる

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しばらくの間やることがなくなった男たちは

しかたなしに近くの海辺で遊び始め

そうして次第に

童心に帰っていく

砂浜で紙相撲を実演したり

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沖縄舞踊を舞い

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落とし穴を掘ったり

銃撃ごっこに興じたりして

われを忘れて遊び呆ける男たち

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そう、終盤でわかるのですが

(ネタバレ御免)

皆、最終的に死ぬ

つまりここに映し出された光景は

前述したように

男たちが辿り着いたあの世の姿なのかもしれません

村川は

実は組長が自分を殺すために沖縄に呼びつけていたことを

薄々感づいていた

やがて真相を突き止めた村川は

追っ手の殺し屋などによって舎弟たちを一人二人と失いながらも

最後に敵陣に乗り込み皆殺しにする

そうして一人取り残された後

村川は車内でひとり拳銃をこめかみに当てて

自ら命を絶つ

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とまあ

あらためて特筆すべき

監督たけしのユニークさ

その演出の類まれな特異さです

例えば殺しのシーンひとつ

こう

なんというんでしょうか

あまりに突拍子がないんですよね

無造作で即物的

さらに言えば

唯物論的な唐突さ

とでもいいましょうか

(はぁ)

因果関係がないのはもとより

殺しそのものに特段の意味がない

無感情、無慈悲

つまりは血が通っていない

あくまで行為としての殺し

それ以上でも以下でもない

そのズバッと本質を突く潔さ

悪く言えば

あっけらかんとした

なかば無責任なまでの軽さ

あるいは例えば

日本の伝統芸能である能のような

無表情で

虚飾を削ぎ落としたようなミニマムな風情に近く

でもむしろそこに

嘘のないリアルさと

ゆえに底冷えする恐怖

何より逆説的になりますが

無感情ゆえの情感を覚えるのです

ラストの村川の自殺も

舎弟たちを皆死なせてしまい

自分だけが生きるわけにはいかない

落とし前をつけるための自殺

といった美学的なニュアンスでは決してなく

そこに特段の理由や感情的な起伏はない

あくまで淡々と

自分の頭を撃ち抜くのみ

といった不条理ともいえる躊躇のなさです

これはある種のニヒリズムで

どこかヨーロッパ的な感覚に近いかもしれません

でも観ている方は

少なからずショックで心を揺り動かされ

その張り詰めた緊張感をたたえた渇いた映像に

いつまでも観入ってしまうのです

そしてこの殺しのシーンと

上述のダラダラとした緩慢さで

延々映し出される遊びのシーンの

このあまりの落差

いやあ

聖と俗、生と死の両極

その一瞬の邂逅を

緩急織り交ぜて

象徴的に表現してみせたたけしの非凡な演出には

ただただ驚くばかりで

つまりは彼に底流する世界観の

これ産物でしょうか

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たけしは1994年にバイク事故を起こし

生死を彷徨います

当時、世間を衝撃の渦に巻き込んだこの事故と

たけしの死生観が表出した本作が

う〜ん

どこか重なって見えるのは僕だけでしょうか

つくづく

というわけで

『ソナチネ』

監督、北野武の才気ほとばしる傑作

オススメです

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