映画『切腹』
映画評です
今回は久々に日本映画をご紹介
1962年製作
小林正樹監督の
『切腹』
↓↓↓
いやあ
日本映画史上、稀に見る力作です
…
舞台は1630年
武士が必要とされなくなるほどに戦がなくなって久しい天下泰平の世の時代
彦根藩井伊家の江戸屋敷を
安芸広島福島家元家臣、津雲半四郎と名乗る浪人が訪ねてきて
「切腹のためお庭拝借」と申し出る
当時、生活に困窮した浪人が切腹する気もないのに「切腹する」と言っては
庭や玄関を汚されたくない藩から
金銭を巻き上げることが流行っており
家老の斎藤勘解由は
今回の半四郎の申し出も
その輩の一人とみなす
そして勘解由は
数ヶ月前にやってきた千々岩求女という浪人の話を
半四郎に語って聞かせるところから
物語は始まります…
どこかで見せしめを作らないときりがないと判断した勘解由は
千々岩求女の申し出をそのまま汲み
丁重に入浴させ
衣服も与え
そうして切腹の場を用意する
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狼狽を隠せない求女だったが
ついに武士として覚悟を決める
だがもともと切腹するつもりのない求女は
刀さえ質に出して持っておらず
この時実際に携えていたのはなんと竹光…
家老の勘解由はその事実を知った上で
あえて求女に竹光で腹を切らせる
という冷酷な仕打ちに出る
そして無謀にも
竹光による切腹を敢行する求女
↓↓↓
(これがどうやっても切れない…リアルです…)
介錯人の沢潟彦九郎が
首を落とす時間を遅らせたことで
求女はあまりの苦痛から舌を噛んで絶命
…と
家老の勘解由から
求女の死に至るまでの話を聞いた半四郎は
最初知らぬふりをしていたが
やがて求女が自分の娘婿であることを告げたことで
家老はこの半四郎が屋敷に来た理由を知ることになる
…
とまあ
橋本忍の脚本があまりに素晴らしいので
物語ばかり先行して
話の筋をついつい書かずにはいられません
娘婿の千々岩求女が
竹光による切腹を強いられて
悲惨な死を遂げる序章から始まり
復讐に来たはずの半四郎が
自らも切腹を申し出るもなかなか踏み切らず
ここに至った経緯、状況を滔々と語り出すことで
やがてその全貌
半四郎の真意が露わになります
この切腹という瀬戸際における
ギリギリのやりとり
う~ん
先の読めない展開と相まって
画面の端々から伝わるただならぬ緊張感を
観る者は(嬉々として)
終始強いられられることになります
↓↓↓
切腹を申し出る浪人津雲半四郎に仲代達矢
井伊家家老の斎藤勘解由に三國連太郎
介錯人で井伊家中の沢潟彦九郎に丹波哲郎
他に
竹光による切腹をする千々岩求女に石濱明
その妻に若き日の岩下志麻
と
この俳優陣のなんという素晴らしさ
仲代の鋭い眼光、みなぎる胆力
三國のしたたかさ
丹波の風格と冷酷さ
ホント観ていてゾクゾクします
あまりの迫力に思わず汗が滲んできます
物語は
浪人の仲代達矢と家老の三国連太郎の語りで展開するのですが
なんというんでしょうか
この張り詰めたトーン
主役二人による
演劇的ですらあるセリフの応酬
それでいて映画は
観念的様式美とリアリズムがまさに融合したような
独特の世界観を内包します
仲代達矢と丹波哲郎による対決
↓↓↓
と
この映画では
刀の怖さを出したいという監督の意図から
なんと撮影でも実際に真剣を使用
クライマックスのリアルな殺陣シーン
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ひとつ間違えると本当に斬ってしまうという
まさに命がけの撮影
鬼気迫る仲代の大立ち回り
↓↓↓
と
この殺陣シーンですが
バッタバッタと切り倒されていく時代劇を見慣れたせいか
どうにも観ていてモタついた感を拭えません
まあそれもそのはず
監督はあくまでもリアリズムを追求したのです
実際の殺陣はおそらくこんな感じなのでしょうね
そう簡単に人が死にません
しかし真剣による緊張感からか
画面の端々から
殺気のような異様な雰囲気が漂ってきます
やがて一人戦う半四郎は疲労困憊し始め
次第に刀が重くなり
足元がふらついてきます
そこを剣の型を保つことでなんとか踏ん張るも
最後は
鉄砲を持ち出され集中砲火の的に…
↓↓↓
死に様はまさに
観念的様式美とリアリズムの極致としての
立ったままの
切腹…
う~ん
本作品は
武士道の非人道性
体裁を取り繕おうとする武家社会の欺瞞体質を
痛烈に、あからさまに描いた
まこと異色の時代劇と言えましょう
計算され尽くしたシンプルで平面的な構図
鮮烈に鳴り響く琵琶の効果音
しかし
それにもまして
小林正樹監督の巧みな心理描写を取り入れた
大胆かつ的確な演出が冴え渡る
この
なんという完成度
もう圧巻の一言です
日本映画のすごさを知らしめた
これぞ真の傑作です
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