映画『ベルリン・天使の詩』

ベルリンの地に

無数に散らばる

幻想的で

饒舌で

豊穣な

詩のかけら

それは

天使の記憶となって

観る者の脳裏に刻み込まれます

1987年公開

フランス、西ドイツ合作の

『ベルリン・天使の詩』

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監督はドイツの巨匠

ヴィム・ヴェンダース(1945-)

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東西の壁が残っていた

ベルリンを舞台に

人間に恋してしまった天使の運命を

詩情豊かに綴った傑作ファンタジーです

ベルリンの街を見下ろす天使ダミエル

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彼ら天使たちは

地上の人々の心の声に耳を傾け

彼らの行動を見守り続けている

無言のうちに寄り添う天使の姿は

なぜか子どもたちにしか見えない

そんなある日

天使ダミエルは

サーカスの空中ブランコを練習中の女性

マリオンに目が留まり

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部屋で独り呟く

「愛したい

という言葉を聞き

孤独を抱える彼女に強く惹かれる

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またある時

ベルリン滞在中の俳優ピーター・フォークに

姿が見えないはずなのに

おもむろに話しかけられ

人間になることの素晴らしさを教えられる

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いつしかダミエルは

天界から人間界に降りたいと思うようになる

人間になって

マリオンを愛したいと思うようになる

親友の天使カシエルに

「外はもう十分だ

不在はもういい

世界の外はもういい

世界の歴史に入って行く

世界の背後の世界など、ご免だ」

と打ち明け

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やがてダミエルは

天使から生身の人間となって

冬のベルリンの地で目覚める

寂しい街並み

浮き彫りになる人々の孤独感

モノクロの淡い色調に包まれた

天使たちの静謐な佇まい

人間界に注がれる

どこまでも優しく穏やかなまなざし

そっと寄り添う姿

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しかし

天使たちは度々

苦悩する人々を目の当たりにします

空襲、サイレンの音、爆弾など

拭えない戦争の記憶

廃墟の跡

不幸を生きる人々の姿

そうした錯綜する負の感情が

イメージとしてフラッシュバックされます

そして

ベルリンの現実を切り取った

アンリ・アルカンの

ロケーション撮影による

ため息の出るような美しい映像

そこに

ペーター・ハントケの哲学的な詩が

覆いかぶさるように流れ続けます

人々の内省的な告白の声を借りて

「ベルリン

異郷なのに故郷みたいな街

迷子にもなれないどこへ行っても壁の街

3分間写真を撮ると他人の顔が出てくる街」

「子供は子供だったころ

いつも不思議だった

なぜ私は私で

あなたでない?

なぜ私はここにいて

そこにいない?

時の始まりはいつ?

宇宙の果てはどこ?

この世の生は

ただの夢?」

ふと

つらつらと囁かれる

繊細な響きとリズムに乗った

この美しい詩と

そこに呼応するように流れる

深淵な音楽が

思うに眠りを誘うんでしょうね

本作は観るたびに

いつも心地よいまでの睡魔に襲われちゃいます

ハハハ

やはり

ダミエルを演じたブルーノ・ガンツの

ピュアな存在感が光りますね

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それと

なんといっても

本人役で出演の

ピーター・フォークが出色です

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「見えないがいるな?

感じてる

ずっと感じてる

君の顔が見たい

こっちがどんなにいいか

教えてやりたい

冷たいものに触る

いい気持ちだよ

タバコを吸う

コーヒーを飲む

一緒にやれたら言うことなしだ

絵をかくのもいい

鉛筆を持ち

太い線を引く

それから細い線

2本でいい感じの線になる

手がかじかんだら

こすり合わせる

これがまたいい気持ちだ!

すてきなことが山ほどある

でも君はいない

僕はいる

こっちに来たらいいのに

話ができたらいいのに

友達だからさ

兄弟!」

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なんと

彼も元は天使だった()

というオチ

遊びごころが効いていますね

グラフィティアートで埋め尽くされた

東西分断の壁を前にして

ダミエルは

天使から生身の人間になるのですが

すると画面は

モノクロからカラーへと変化

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人間になったことを証明する()鎧が落ちてきて

頭についた血を見て

初めて赤い色を知り

ひとり喜ぶダミエル

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天使だった彼にとっては

地上の世界のすべてが新鮮で

色彩と喜びに満ち満ちています

そうして終盤

人間となったダミエルは

あるライブ会場のカウンターバーで

マリオンと運命の出会いを果たします

出会ってすぐ

マリオンがダミエルに語りかけます

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彼女の長い長い

詩のようなセリフ

「偶然のせいだと思ってきた

私の両親にしても

ほかの人でなかったのは偶然

男と女の

大いなるものの歴史

目に目えなくても

伝わっていく

新しい始祖の歴史

見てわたしの目を

映ってるでしょう?

必然が

広場の人々の未来が

聞いているうちに

哲学的な思索に耽りながら

男と女の出会いの重みが

次第に胸の中へ

ズンズンと入り込んでくるのを覚えます

いやあ

本作はまさに

詩と映像の奇跡的な邂逅

とでもいいましょうか

それは過去と現在

そしてラストシーンで描出された

たしかな未来を

自ずと予見させ

この残酷な現実を

優しく美しい世界へと

転化せしめる力を

その可能性を

静かに力強くうたい上げているのです

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う〜ん

観ていて自ずと

涙が溢れてきます

なんという無二の世界観でしょうか

というわけで

『ベルリン・天使の詩』

巨匠ヴェンダースの

ベルリンに対する思いや

とめどないイメージの連鎖によって紡がれた

稀有なラブストーリーの傑作

今更ながら

オススメです

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