映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』
1986年製作
ソビエト連邦の映画
『不思議惑星キン・ザ・ザ』
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監督は
グルジア(=ジョージア)出身の
ゲオルギー・ダネリヤ(1930-2019)
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ここで前置きを少々…
これは文学、音楽、美術など
他の表現ジャンルも同様ですが
ソ連の映画は
80年代中盤まで
ソ連邦国家映画委員会による統制が敷かれ
自由な製作が許される環境にありませんでした
とりわけグルジアは
スターリンの生まれ故郷ということで
ことのほか厳しい検閲の中にありました
しかしそうした環境下にあっても
コーカサス三国のひとつ
グルジアは
数多くの映画を製作してきた土壌があります
その中でも
たとえば
計15年に及ぶ獄中生活を送るなど
苦難の映画人生を辿った
グルジア出身のアルメニア人
セルゲイ・パラジャーノフ(1924-1990)
や
自由な環境を求めてフランスへ移住し
パリで精力的に創作活動に励んだ
グルジア出身の
オタール・イオセリアーニ(1934-2023)
など
このコーカサスの山岳地帯において
優れた映画作家が多数輩出されています
と
そんな折
80年代中盤以降に
ゴルバチョフによる政治改革
ペレストロイカが始まります
この運動は
最終的にソ連解体、冷戦終結へと結実し
それに伴って
ソ連国内においては
表現の自由や信教の自由、出入国の自由など
市民の権利が急速に獲得されることになります
そのような流れの中で
映画業界においても
80年代後半から一転
自由で制約のない映画表現が許容されるようになるのです
って
この長年の抑圧から
一気に解き放たれたかのような
映画作家たちの
マグマのような表現の噴出には
実際、凄まじいものがあり
上映禁止の憂き目から解放された旧作も含めて
この時期
いろんな表現に満ちた映画たちが
一気に溢れかえることになります
たとえば
カネフスキーの『動くな、死ね、甦れ!』(1989)
パラジャーノフの旧作から
『アシク・ケリブ』(1988)へと至る一連の作品
またソクーロフ(1951-)は
処女作『孤独な声』(1978)の正式公開を皮切りに
以後、多作ぶりを発揮、と
さらには
ゲルマンの『フルスタリョフ、車を!』(1998)
バラバノフの『フリークスも人間も』(1998)
などの怪作に至るまで
ホントまあ
キリがありませんね
そのパワフルな作品群は
まこと目を見張るものがあります
つくづくこれもひとえに
タルコフスキー(1932-1986)を筆頭に
崇高でアヴァンギャルドな作家精神が
共産主義国家の抑制の下で
脈々と息づいていた
これまぎれもない証左といえましょうか
おっと
すっかり話が長くなってしまいました…
ということで
今回ご紹介の
『不思議惑星キン・ザ・ザ』のダネリア監督も
国家による検閲の中で
映画を創作し続けたひとりです
そしてあらためて
この『キン・ザ・ザ』は
ペレストロイカによって
ソ連の映画が
抑圧から解き放たれる
ちょっと前に位置付けられる
制約下で撮られた作品にして
しかし
まぎれもない
来るべき時代を予見させる
新しい空気感に満ち満ちた映画なのです
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…
冬のモスクワ市内に
異星人を名乗る裸足の男が現れる
この謎の男の持つ空間転移装置によって
ある建築技師と学生が
キン・ザ・ザ星雲の
砂漠の惑星ブリュクに
突如、テレポーテーションしてしまう
彼らは
砂漠に住む異星人たちに働きかけて
なんとかして地球に戻ろうとするのだが…
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お堅いイメージのソ連らしからぬ
シュールで奇妙なSFコメディです
お
大きな鐘のような飛行船に乗って
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おもむろに砂漠に降り立った
おっさん2人の異星人は
最初、おかしなポーズで
「クー」とか
「キュー」
としか発さない
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高い知能を持つ彼らは
やがてすぐに
ロシア語を理解し話すことができるようになる
そして
この星の社会は
チャトル人とパッツ人という
2つの人種に分かれていて
支配者であるチャトル人に対して
被支配者であるパッツ人は
鼻に鈴をつけて
絶対忠誠を誓わなければならなかった…
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本作は
そんな地球人2人の奮闘と
惑星ブリュクの異星人たちとのやりとりを
終始とぼけた風情で描いていきます
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いやはや
この惑星ブリュクの奇妙なルールと
彼らの発する言葉の独特の味わいが醸し出す
摩訶不思議な世界観
実は
本作は
当時のソ連の政治体制を
暗にほのめかしていると言われています
その上で
時代の変化の予兆といいますか
どこかゆるくダラけたような
いわば停滞感
それゆえの気ままなムードが
全編、的確に表現されていて
う〜ん
なかなかどうして
絶妙な立ち位置です
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よくよく
豊穣なるソ連映画の一端を
この奇妙なSF映画に
垣間見ることができますね
というわけで
『不思議惑星キン・ザ・ザ』
旧体制下のソ連における
新たな息吹きを感じさせる
稀有な一作
いやあ
今更ながら必見です
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