映画『ママと娼婦』

1973年製作のフランス映画

『ママと娼婦』

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監督・脚本は

ジャン・ユスターシュ(1938-1981)

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わずか2本の長編と数本の中短編を遺し

1981年にパリの自宅で拳銃自殺を遂げ

42歳の短い生涯を終えた

フランスの伝説的映画作家です

う〜ん

この人は

残されたいくつかのエピソードから

しばしば精神的に不安定で

自己破壊的な性向の持ち主だったようですね

そんなユスターシュの

私的経験に基づいた

上映時間218分に及ぶ

彼の最初の長編映画が

本作『ママと娼婦』となります

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1972年パリ

無職の若者アレクサンドルと

年上の恋人マリー

そして

カフェで知り合ったヴェロニカ

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映画は

3人の三角関係を軸に

ちょっと進んだ性のあり方を

生々しくも赤裸々な会話を通して

リアルに描写していきます

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日本初公開は1996年

当時、僕は26歳でして

本作を映画館で観ましたが

正直

とにかく長かった記憶がありますね

男と女の

恋愛の一部始終

時に曖昧で

ちょっと不思議な関係

恋人たちは

人生を積極的に楽しむでもない

どこか刹那的

その場しのぎないい加減さに満ちていて

その上で

ある種

虚無的ムードが漂っているのは

これ時代性ゆえでしょうか

でも

怠惰で

無邪気で

自由気ままで

つくづく

これは若者の特権ですね

って

観ていて

当時、同じような歳の自分と

劇中の若者たちとの

このあまりの違いに

少なからずショックを受けたように思います

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映画の舞台は

ほとんど街中のカフェか

恋人たちの部屋(ベッド)の中で

本作は

まあ

ダラダラと

いや

饒舌に語られる会話劇です

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◎女:ヴェロニカ

「あなたは何者?

仕事は何してるの?」

◎男:アレクサンドル

「倦怠主義者かな

たしかボルヘスが書いた異端宗派のように

倦怠こそが教義なんだ

信仰でなく

倦怠から生まれる無に生きる

僕の信条だ

自画像を見せよう

僕を見せよう

これが存在証明だ

時には陽気になる

今がそうだ

君といるから…」

◎男:アレクサンドル

「苦労せず金をもうけ

創造する人もいる

例えば映画を作る人達だ

生活のためだと言う

どう生きようと構わない

不公平感を助長するならね

しかし創造に携わり

世界を豊かにすると信じてる

最悪だよ

味はどう?

筋が多いね」

◎女:ヴェロニカ

「平気よ

とてもおいしいワインね」

◎男:アレクサンドル

「まあね

知ってる?

冷えた食事は味がしない

熱いのも熱いだけで味がしない

固いのは固いと感じるだけ

水っぽい食事も結局は味がしない

つまり生温く柔らかい物が一番なんだ

ほら

陽が落ちた」

◎女:ヴェロニカ

「恋はよくするの

すぐ相手に惚れて

すぐ忘れちゃう

誰でもいいのよ

好きなのは最初の3ヶ月だけ

誰かがいればいいの

それだけ」

ふぅ

こんな調子で

たわいもない

しかし

どこか意味深で

気取った会話のやりとりが

延々続きます

そうして

程なくして

2人は愛し合う

やがては

アレクサンドルの今の恋人

マリーを交えた

奇妙な三角関係が形成

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女同士も意気投合して

二人してひとりの男を愛する

自由で開けた関係性が構築された

…かと思いきや

う〜ん

なかなか

そういうわけにはいきませんね

次第に露呈する不協和音

三者三様

各々が穏やかならぬ胸の内をあらわにし

時折、感情を暴発させます

3人の姿を

ずっと観続けていくうちに

やがて作品の相貌が露わになってきます

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ヴェロニカは

優柔不断で不誠実な態度を示してばかりのアレクサンドルに対し

カフェで彼をなじり

一方、内心で

アレクサンドルを独占したいマリーは

些細ないざこざから

睡眠薬で自殺を試みる…

そうした中

カメラは

ヴェロニカの長い長い独白を捉えます

性に奔放で自由を謳歌しているはずの彼女は

周囲からしばしば”娼婦”と見なされ

それゆえの

自由恋愛への違和感を吐露する

饒舌な言葉の背後に横たわる

葛藤、苦悩、絶望

満たされることのない孤独感…

しかし

幸せになりたいという切実な思いが

画面から自ずと伝わってきます

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そしてヴェロニカは

アレクサンドルに

妊娠している可能性を告げる

やがて

アレクサンドルは彼女に求婚する…

映画は

二人の曖昧な結末を暗示するにとどめて

唐突に終わりを迎えます

いまを生きる恋人たちの

リアルで偽りのない姿が

そこにあるのです…

とまあ

そんなこんな

3人のアンサンブルが絶妙で

素晴らしいですね

女性たちに終始翻弄される

ダメ男、アレクサンドルに

ご存じ

“永遠の子ども”

ジャン=ピエール・レオー

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気性の激しい女、マリーに

ベルナデット・ラフォン

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そして

心ここに在らずのような

空虚な眼差しが印象的な

自由奔放な女、ヴェロニカに

フランソワーズ・ルブラン

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実は彼女は

ユスターシュ監督の元カノで

交わされるセリフも含めて

本作は

監督の私生活が

少なからず投影された作品と言えましょうか

というわけで

『ママと娼婦』

つくづく

すごい映画

ジャン・ユスターシュの異才ぶりが

フィルムに明確に刻印された

まさに伝説的傑作

あらためて

必見です

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