映画『さらば、わが愛/覇王別姫』

1993年公開
中国・香港・台湾合作の
『さらば、わが愛/覇王別姫』
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監督は名匠
チェン・カイコー(陳凱歌、1952-)
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約50年にわたる激動の中国近代史を背景に
京劇という伝統芸能の世界に生きる人々の
過酷な運命を描いた
172分に及ぶ人間ドラマです
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…
1920年代の北京
娼婦の母親に育てられた豆子(ドウズ)は
京劇の養成所に預けられる
そこは子どもたちが激しい体罰を受けながら
歌、踊り、立ち回りを叩き込まれる過酷な世界
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そうした厳しい環境下で
兄貴分の石頭(シートウ)が
何かと豆子の面倒を見てあげていた
やがて2人は成長し
豆子は程蝶衣(チェン・ディエイ)
石頭は段小楼(ドアン・シャオロウ)
という京劇俳優になる
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蝶衣はが女性役「虞姫」を
小楼が英雄「項羽=覇王」を演じる
京劇『覇王別姫』で
2人は一躍、大スターになる
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男性である蝶衣は
幼少期から女形を徹底的に叩き込まれ
次第に”舞台上の虞姫”と”現実の自分”の
境界を見失っていく
そして蝶衣は
小楼を単なる舞台上の相棒ではなく
現実においても愛するようになっていく
しかし小楼は
娼館で働く菊仙(ジューシェン)と結婚し
ここから
蝶衣と小楼と菊仙
の三角関係が始まる…
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ふぅ
いやはや
濃密なドラマです
蝶衣にとって小楼は
単なる舞台上の共演者ではありません
京劇の物語では
虞姫は覇王を最後まで愛し
死をもって忠誠を貫きます
蝶衣はその関係を現実にも求めるのですが
しかし小楼は違った…
彼にとってはあくまでも
舞台は舞台
人生は人生
なのです
このそもそもの認識の違いが
ドラマの核心になります
そしてそんな2人の人生の背後で
中国そのものが激変を遂げていきます
軍閥時代
日本軍による占領
国共内戦
共産党政権成立
そして文化大革命…
政治体制が変わるたびに
つど”正しいもの”が変わります
その影響は
演者である2人にふりかかります
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昨日まで称賛されていた京劇が批判され
昨日まで尊敬されていた芸術家が
反革命分子として吊るし上げられるのです
ついには
文化大革命に至って
群衆の前で
蝶衣、小楼、菊仙が
互いを告発するよう強制されます
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そこで小楼は
生き延びるために蝶衣を裏切り
さらに菊仙との関係まで否定してしまいます
それを聞いた菊仙は絶望し
自ら命を絶つのです
やがて文化大革命が終わり
長い年月を経て
蝶衣と小楼は
再び『覇王別姫』を演じ
そして…
う〜ん
なんという展開
言葉も出ませんね…
と
本作を貫くテーマ
それは
“演技”と”現実”の境界を巡る
演者たちの葛藤にありましょうか
特には
女性役の蝶衣です
蝶衣は幼少期から
女形を演じ体得するため
自らの性別すら否定するような訓練を受けます
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物語の序盤
母親が幼い豆子を京劇学校へ預けようとするも
豆子の指が6本あるため
師匠は受け入れられないと拒絶します
そこで母は刃物で
豆子の指を1本切り落としてしまいます
よくよく
このシーンは
豆子が女形として矯正されていくことを表す
いわば”去勢”の比喩と
捉えることができましょうか
つまりは
物理的な生殖器の切除
というより
男性としての自己認識を断つ
象徴的な去勢という意味で…
豆子自身も
最初は”男だ”という認識、自覚があります
しかし何千回、何万回と
虞姫を演じ続けるうちに
次第に虞姫そのものになってしまう
もはや蝶衣にとって
『覇王別姫』は芝居ではありません
自分の人生そのものです
その一方で
小楼は役と自分を容易に切り離せます
つまり
小楼は覇王を演じる男
蝶衣は虞姫になってしまった男
この2人の役に対する
決定的なスタンスの違いが
やがて悲劇を生むのです
映画は
彼らの舞台である
京劇という”虚構の世界”が
革命・戦争・政治という”現実の世界”に
翻弄され
呑み込まれていく様を
特には
文化大革命によって
人間関係そのものが
政治によって破壊されていく様を
凝視し続けます
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いやあ
それにしましても
この京劇という
美しさと怖さが共存した
完璧に作り込まれた舞台の
ある種の特異さ…
華美なビジュアルを支える
その圧倒的な熱量と技量
厳格な洋式美に裏打ちされた
魅惑の世界観
う〜ん
なんという独創性でしょうか
煌びやかな衣装
独特の優美な歌やパフォーマンスとともに
一瞬で惹き込まれてしまいます
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ふと
観ていて思わず
日本映画の『国宝』を想起させて
両作を比較してみるのも面白いですね
つくづく
耽美を一身にまとう
レスリー・チャンの狂気と妖気
終始ただならぬムードをまとっていて
もう圧巻です
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演技と現実の狭間で苦悩し
その境界線が融解していく様を
まことリアルに演じ切って出色です
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対する
小楼を演じたチャン・フォンイーも
相手役のレスリーの
ヒリヒリするような緊張感と対照的な
安定感を発揮していて
抜群の相性ぶりですね
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そして
2人に割って入る
菊仙役のコン・リーがもう素晴らしい
紅一点にして堂々たる存在感です
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というわけで
『さらば、わが愛/覇王別姫』
壮大なスケールの中で
繊細な演出が光る
チェン・カイコー渾身の一作
華やかな京劇の舞台と
残酷な現実の両極を
フィルムに刻み込んだ
人間ドラマの力作
いやあ
これは必見です
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