映画『溝の中の月』
1983年製作のフランス映画
『溝の中の月』
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監督は80年代初め
当時低迷していたフランス映画界に
突如現れた新星
ジャン=ジャック・ベネックス(1946-)
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ベネックスといえば
『グラン・ブルー』のリュック・ベッソンや
『ボーイ・ミーツ・ガール』のレオス・カラックスらと共に
80年代のフランス映画を牽引する存在で
当時はとにかく勢いがありましたね
斬新な映像表現
オペラ歌手を巡る奇想天外なストーリーテリングに
多くのファンが熱狂した長編デビュー作
『ディーバ』(1981)
あまりに鮮烈で生々しい愛の形を描いた代表作
『ベティ・ブルー』(1986)
ライオンとのスリリングな競演
『ロザリンとライオン』(1989)
など当時
傑作を連発してました
…が
実はそんな中で
一本だけ見事にスベった異色作があります
ベネックスの長編2作目にあたる本作です
…
ある晩
港町の路地裏で自らの喉をかき切った
若い娘の死体が発見される
レイプされたことによる衝動的な自殺だった
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娘の兄ジェラールが妹の仇をとるべく
犯人を探しまわる中で
街を牛耳るチャニングに会い
そこに現れた謎の女ロレッタに一目で心奪われる
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ロレッタはチャニングの妹だった
やがてジェラールはロレッタと結ばれ
そして暗くてうす汚いこの港町から脱出しようと試みる…
とまあ
ノワール調のサスペンスドラマですが
冒頭の
路地の溝に流れ落ちた女の血が
月の光を照らすシーンや
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掃き溜めのような場所に
赤いスポーツカーの美女が現れるシーンなど
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う〜ん
どうにもベタな表現が鼻につくというか
美しさを際立たせる描き方が直裁的過ぎて…
でもよくよく本作は全編この調子なんです
これ見よがしなまでに過度な情緒
下手な演劇の舞台のように
コテコテに作り込まれた空間設計
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なかば支離滅裂なストーリー展開と
抽象的観念的なシチュエーション設定
冗長なテンポ
港で働く貧しく屈強な男と
謎に包まれた美女という
ステレオタイプな登場人物と
彼らのどうにも薄っぺらい背景と内実
…がしかし
なかなかどうしてその一方で
酒場にたむろする底辺を喘ぐ人々
…呑んだくれる娼婦の呻きなどの
この陰湿で濃密なトーン
全編を覆う停滞感
耽美で退廃的なムード
それでいてポップアートのような明快さと寓話性
人工的な色彩感覚に溢れた
絵画的な画面構成
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なんだかんだ
いつまでも脳裏にこびりついて離れない
この鮮烈な印象は一体何でしょうか
若き日の精悍なドパルデューと
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あまりの美しさにため息しか出ない
ナスターシャ・キンスキー
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こだわり抜かれたショットの積み重ね
それによって構築された
虚構の
しかしこの上なく眩く幻惑的な世界観
監督が意図した目論見
目指した方向性
それは商業ベースに収まることのない
どこまでもリスキーでチャレンジングな試み
まこと本作は
ベネックスの骨太な作家性が如実に垣間見れた
堂々たる失敗作と言えましょうか
つくづく作品の出来はともかく
僕はこういうアンバランスでとんがった映画が大好きです
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