映画『許されざる者』

前回に引き続き

神話の崩壊をもたらす真実の姿を描いた

露見する映画

今回は決定版をご紹介

1992年製作のアメリカ映画

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クリント・イーストウッドが

製作・監督・主演のひとり三役を務めた

ご存じ

『許されざる者』

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御歳91歳にして

いまだ現役を貫くレジェンド

イーストウッドが60歳の円熟期に

満を持して放った力作です

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銃を捨て密かに暮らしていた老ガンマンが

賞金稼ぎのため

再び銃を取る姿を描く西部劇

ですが

『ダンス・ウィズ・ウルブズ』の2年後に製作された本作で

イーストウッドは

自身、俳優として

また監督として営々と築き上げてきた

キャリアの主軸をなすジャンルである

「西部劇」の

正当性、意義を

あろうことか

自ら否定してみせます

あらためて

イーストウッドが本作で試みたこと

それは

アメリカ合衆国の国是である

フロンティア・スピリット

体現する役割を果たしてきた

「西部劇」の

いわば虚飾を暴いた点にありましょう

つまりは

西部開拓という名の

ネイティブアメリカンへの侵略、排斥の歴史

正義のためなら暴力もいとわない

むしろ是とする価値観への

異議、反発の表明です

劇中

イーストウッド演じるマニーは

かつて悪名を轟かせた

伝説のアウトローでしたが

10数年前に妻と出会ってから改心し

今は農夫として生活していて

時折

数々の殺人を犯してきた過去に対し

少なからぬ罪の意識を抱いています

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ええっ

何を今さら

そんな野暮なことを言ってるんだよ

って

往年の映画関係者やファンの多くが

イーストウッドの変心

洒落の通じない姿勢に

少なからず戸惑いの声を漏らしたのではないでしょうか

西部劇は

所詮、エンターテインメントなのだから

勧善懲悪のストーリーを伝えるための

あくまで題材に過ぎないのだから

しかしイーストウッドは

元来、西部劇で

伝統的に描かれてきた美学、ロマンを

本作で真っ向から否定し

そこに

倫理面を問うた

リアリズムを持ち込んだのです

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妻は3年前に天然痘で亡くなり

マニーはまだ幼い2人の子どもを育てながら

厳しい農作業に明け暮れています

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そんな折

かつての噂を聞きつけた若いガンマンから

賞金稼ぎの話を持ちかけられ

いったんはその誘いを断るが

困窮する生活から抜け出たい一心で

マニーは10数年ぶりに

銃を手に取る決意をします

そうしてかつての相棒と共に

目的地へと馬を走らせ

再び暴力の渦中へと舞い戻っていくのです

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う〜ん

よくよくマニーは

妻のおかげで改心したとはいえ

自分が過去に犯してきた罪が

免れるとは思っていません

むしろ暴力を持ってしか生きることができない

ならず者としての己の性を

つまりは

他でもない己自身が

許されざる者

であるということを

誰よりも自覚しているのです

クライマックス

ジーン・パックマン演じる

悪徳保安官ヒルに対し

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諦念漂うマニーによって遂行される

凄惨な復讐劇

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暴力が暴力を生むこの悪循環

決して爽快ではない結末

そこには虚無感しか残されていない

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つくづく

本作を通じて

いみじくも西部劇の欺瞞を突いたイーストウッドは

結果的に

おのれ自身に銃口を向けたことになります

かつて彼は

数々の西部劇に主演して

スターになったのですから

しかし本作は

痛烈なメッセージを内包した

シリアスなテーマの作品であるにもかかわらず

2年前の『ダンス・ウィズ・ウルブズ』に続く形で

その年のアカデミー作品賞、監督賞はじめ4部門を受賞し

皮肉にも

衰退したといわれた西部劇を

見事、復活せしめることに貢献します

と本作のエンドロールに

「セルジオとドンに捧ぐ」

という一文がクレジットされます

イーストウッドの恩師である

セルジオ・レオーネとドン・シーゲルへ

オマージュを捧げることで

彼なりのやり方で

古き良き時代の西部劇を

暴力の是非という

混沌とした現代にも通じる

普遍的なテーマを持ったジャンルへと

見事、昇華させたのです

そして

あらためて

いま観ても本作は

その独特の暗く抑制されたトーンによる

陰湿な描写が

観る者の心に

深く静かに突き刺さる傑作です

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って

それはそうと

多分にナルシスティックなイーストウッドを

随所に垣間見ることができますが

というわけで

『許されざる者』

イーストウッドが自身のキャリアを賭して創り上げた

渾身の力作

今更ながらおススメです

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