映画『レイジング・ブル』

映画評

1980年製作のアメリカ映画

言わずと知れた

スコセッシとデ・ニーロの名コンビによる

ボクシング映画の傑作

『レイジング・ブル』

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この映画

全編とにかく空気が悪い

濁っています

まあ言ってみれば

負のエネルギーが至るところに充満しています

ゆえに全編を通して異様な緊張感にあふれています

この映画に漂うネガティブな空気の正体

それは人間の弱さ、醜さ、いたらなさです

それを一身に背負った人物こそが

デ・ニーロ演じる主人公

ジェイク・ラモッタです

しっかし

ホントこの人メチャクチャです

ブチ切れまくり

矢印は外に向けまくり

妻への暴力もいとわず

嫉妬や猜疑心、強欲にまみれています

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なんだか演じるデ・ニーロ本人そのものなんじゃないかという

そんな疑いを抱かせるほど役に見事にハマってます

眼がホント怖いんですよね

冷淡で鋭い眼光

世の中に本当の悪人なんかいないという

僕の淡い幻想が

いとも簡単に打ち砕かれてしまいそうです

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主人公デ・ニーロと弟役のジョー・ペシのやりとりは

空気がピーンと張り詰めていて

観ていて息苦しくなりますね

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そして

そうした負のエネルギーが爆発する場

つまり

フラストレーションのはけ口の

象徴が

ここではリングの上でして

そのうごめく感情の高ぶりが

そのままボクシングシーンに反映されます

スコセッシ監督は

ボクシングのリングという場を

俗世に生きる人々の業や罪をはらし

浄化させる

聖なる場

と捉えているふしがあります

なので

この映画の中でのボクシングシーンは

かなり異質です

スポーツとしてのボクシングというより

抑えられない感情を爆発させることによって

人々の気を祓う

儀式の場

もしくは

苦行の場

のようでさえあります

(一部を除いた)ほぼ全編モノクロの映像が

特異な世界観を創り出すことに成功しています

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そして

ボクサーたちの飛び散る汗と血しぶき

人々の熱気

たばこの煙

リングを覆うロープの質感までも生々しくとらえ

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何か得体の知れない巨大な負の空気が

リングを取り巻く場内全体を呑みこんでいきます

俗世に生きる人間たちのアクがにじみ出て

その観衆たちの前で

2人が殴り合うことによって

いつしかそれが

聖なる場へと昇華される

その上で

人々が社会生活の中で犯したに対して

リングの上でを受けるかのごとき

そうしたある種

贖罪

のような意味合いを

闘うボクサーたちに背負わせているようです

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ここが面白いところなんですが

主人公ジェイクは

世間、現実社会、そして己の運命に

ただひたすら抗っていきます

ジェイクのファイトスタイルは

相手から逃げない

相手のパンチをもらい続けても

絶対に倒れない

人々の業や罪を

すべて受け止めてもなお

絶対に屈しない

負けないという

気迫に満ちあふれています

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ジェイク自身

まんま社会の罪悪の権化のような

この男にとっての

それは

ある意味

神に対する挑戦です

しかし

スコセッシ監督は

このどこまでも傲慢不遜な男の生き様のなかに

ボクサーの本質を見出すのです

とても逆説的になりますが

ジェイクの血みどろの闘いぶりは

他の誰よりも

結果的にある種の

聖性

を帯びていきます

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怒れる牡牛”(=レイジング・ブル)

の異名をとった

実在のボクサー

ジェイク・ラモッタの

その悪魔性のなかに

リングでの闘いを通してしか

現実社会と折り合いをつけることができない

ボクサーという生き物の

強靭さ

悲哀

そうしたものを含めた

本性

を垣間見るのです

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やがてそんなジェイクには

神への冒涜という

犯したに対する

リングを下りた後も続きます

しかしこの男

絶対に屈しません

世界チャンピオンの座から陥落し引退したジェイクは

でっぷりと肥え太りながらも

ナイトクラブのオーナーとなり

過去の栄光に浸りながら

あくまでも己のみを信じて前に突き進んでいくのです

実際に27キロ太ってみせたデ・ニーロに

ただただ唖然

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ボクサー体型といい

生身の肉体が持つ説得力を見事に体現しています

いやあ

それにしても

スコセッシの演出は冴えまくっていましたね

まあでもこの頃がピークでしたね

ハリウッドシステムにのっとって

ディカプリオと組んだ

近年の一連の映画は

従来のスコセッシ作品特有の

負の空気感が全然出ていないんですよね

悲しい限りです

しっかしつくづく

悪の力

ネガティブなエネルギー

それは

ポジティブのそれを

はるかに凌駕する強度を持っているということを

痛感します

まあ映画なんかは特に

ネガティブな面が全面に出ている方が

断然面白い

と個人的に思います

というわけで

スコセッシ&デ・ニーロの他の作品も必見揃いです

2本だけご紹介~

もはや伝説

THE狂気

『タクシードライバー』(1976)

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若きデ・ニーロのあっぱれな切れっぷり

『ミーン・ストリート』(1973)

↓↓↓

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