映画『幻の光』
1995年
渋谷文化村の前にオープンした
単館の映画館
シネアミューズ渋谷
その記念すべき封切第一作
(だったと思います…)
『幻の光』
↓↓↓
宮本輝の短編小説の映画化
監督は
今年のカンヌ国際映画祭で
新作『そして父になる』が
審査員賞を受賞した
TVドキュメンタリー出身の
是枝裕和(1962-)
彼の記念すべき監督デビュー作です
いやあ
日本映画というと
今でこそ
徐々に国際的評価を獲得しつつありますが
90年代当時は
それはもう停滞ムードに覆われていました…
かつて世界の映画界をリードしていた
日本映画の黄金時代よいずこへ
う~ん
1950年代の全盛期以降
下り坂に歯止めが利かず
正直
当時の僕は
日本映画に見向きもしなくなっていました
そんな中で
ふと
何かの拍子に観た1本です
…
ゆみ子は12歳の時
祖母が失踪したことで
祖母を引き止められなかったことを悔いていた
やがて25歳になり
夫の郁夫と息子とともに
幸せな日々を送っていたが
ある日突然
今度は夫が自殺してしまう
そして
奥能登の小さな村に住む民雄と再婚した今も
過去の悔いを残していた
…
とても静かな映画です
映像は
かぎりなく自然光に近く
そのため
画面全体のトーンがかなり暗く
それでいて
カメラは
最後まで人物をアップで捉えることはしません…
長回しが多用され
セリフも少なく
ドラマチックな場面もないまま
映画はただ淡々と進行します
↓↓↓
こう書くと
なんとも退屈に映りがちです
が
ところがどうして
観ているうちに
自分の内なる感情が
次第にジワジワと
高ぶっていくのを覚えます
ふと
自然そのものを
描いていることに気づきました
石川県の奥能登の
四季折々の美しい風景が
折り重なるように
画面を占めるのみならず
そこに住む
人間も
風景と同じく
自然である、と
この映画では
人物を
画面構成の中で
突出させるような
描き方は決してせず
どこまでも自然の一部としてとらえています
ゆえに
時に人間は
日本海に面した奥能登の
その圧倒的な風景の中に
自ずと埋没していきます
主演は
これが映画デビューとなる
江角マキコ
う~ん
彼女の
ぱっと見の
存在感の希薄さ…
かと思いきや
それでいて
自然の一部のような
その独特の佇まいによって
次第に浮き彫りになる
存在の確かさ
絶妙な立ち位置ですね
撮り方がうまいです
人間のあらゆる営み
その死すらも
どこまでも自然の一部に過ぎないということを
時の経過と共に映し出される
自然の
この目を見張る美しさ
荘厳さを通して
無言のうちに語りかけます
…
ゆみ子は
初めて民雄に打ち明けます
「なぜ郁夫が自殺してしまったのか
いまだにわからない」
と…
すると民雄が言います
「漁師だった親父が言ってた
“海に誘われるのだ
沖の方に綺麗な光が見えて
自分を誘うんだ…
誰にもそんな瞬間があるんだ”
って…」
…
この映画は
生と死の揺らめきを
女性心理のそれになぞらえて描いた
ひとりの女性の
喪失と再生の物語です
(小説は読んでないので同じ主題かどうかわかりませんが…)
そして答えは
いつも
自然の中にあるのです
↓↓↓
いやあ
自然との共生が
どこまでも理想論であるという前提の上で
なおも
人間の生と死を
自然の一部として俯瞰するべく
映像の力で語りかけようと試みるあたりに
日本
ひいてはアジアの
風土
文化
精神性
そしてこの先の
人類が生きていく姿の
ビジョンの一端を
ここに垣間見る気がしましたね
う~ん
是枝裕和…
すごい作家が日本に現れたものだと
感嘆したのを覚えています
彼が只者ではなかったということは
その後の
『誰も知らない』(2004)で
確信に変わりましたね
90年代後半
ハリウッド至上主義に対する疲れが
見え隠れし始め
同時に
何か
日本映画が
変わろうとしているように見えました
この『幻の光』には
日本映画の持つ可能性
視点の新しさ
表現の豊かさを
再認識させる
芽が
宿っていました
映画館を出た僕は
渋谷の喧騒が
どこか異国にいるかのように違って見えました
日本もまだまだ捨てたものじゃないな
と
2009年
シネアミューズは閉館に追い込まれます
単館ロードショーが厳しい時代になりました
日本映画も少しずつ元気を取り戻しつつある昨今ですが
日本のみならず世界の
心を揺さぶる小品が
市民権を得られない事態は
なんとか回避したいものですね
いや~、毎回思いますが、本当に映画を語る文章は凄いです。
読んでいて、どんどん吸い込まれてしまいます。
この評論は、完全に素人の域を超えていますね。
読み終わった後に、自分がかなり映画通になった気がしてしまい、思わず誰かに話したくなりますが、現実には何も語れない自分がいるだけです(笑)。
今回も楽しませていただきました、ありがとうございます。
>(株)第二営業部 教授さん
いやいや、恐縮です。
そう言って頂けるとうれしいです。
コメントありがとうございました^ ^。