映画『雪の轍』

まだどこかで上映してるでしょうか

先日合間をぬって観てきました

ただいま政情不安に揺れるトルコの

2014年製作の映画

『雪の轍』

↓↓↓

blog_import_6442a76c222f2.jpg

監督はトルコの巨匠と称される

ヌリ・ビルゲ・ジェイラン

トルコ映画なんて

なんとまあ珍しいこと

ふと

過去に一本だけ観た覚えが

その一本とはもちろん

ユルマズ・ギュネイ監督の

『路』(1982)です

当時政治犯として収監されていたギュネイが

監獄から指示を出して製作したという

伝説の映画です

その年のカンヌで最高賞を受賞し

日本でも上映されたので

知っている人にとっては有名な映画ですね

僕も昔ビデオで観ましたが

イスラムの古い因習に縛られる人々の

生活と苦悩が

厳しい大自然の中であぶり出された

なんともすごい映画だった記憶があります

DVDが出たらあらためて観たいなぁ

話がすっかり逸れましたが

今回ご紹介の『雪の轍』は

トルコ映画では『路』以来となる

2014年のカンヌで最高賞を受賞した話題作です

上映時間は3時間16

いやあ

見応え十分の力作でした

映画の舞台となるのは

世界遺産で有名なトルコのカッパドキア

目を見張る美しさです

↓↓↓

blog_import_6442a76eea411.jpg

この奇岩が立ち並ぶ大自然の中にある

洞窟ホテルで繰り広げられる愛憎劇

物語は

ホテルを営む資産家の夫と若く美しい妻

そして離婚して出戻った妹の

3人を軸に

一見平穏に見えた生活が

ある賃借人一家の少年がとった行動から

徐々に亀裂を生み始め

雪の訪れと共に閉ざされたホテルの中で

次第に確執を深めていく様を描きます

↓↓↓

blog_import_6442a77175754.jpg

う~ん

往年のベルイマン映画を彷彿とさせる

密室の中の濃密な対話劇

しんしんと降り積もる雪と共に

秘められた内面が明かされていき

やがて相手に容赦ない言葉が放たれます

くぅ

キツい一言

静かで寂寥感漂う窓の外の風景と

まさに対をなすように

ホテル内の渋い色調の部屋のあちこちで

議論が

そして罵り合いが

延々繰り広げられます

執筆をしている兄の背後で

兄の文章を淡々と

しかし痛烈に批判する妹

↓↓↓

blog_import_6442a77441a3c.jpg

慈善事業にいそしむ妻の偽善ぶりをなじる夫と

そんな夫の杓子定規な常識人ぶりに対する

窮屈さを責め立てる妻

↓↓↓

blog_import_6442a776cc903.jpg

妻を演じるトルコのイスタンブール出身の女優

メリサ・ソゼンが

とにかく美しい

↓↓↓

blog_import_6442a77931f24.jpg

このなんとも神秘的な容貌は

アジアとヨーロッパにまたがる

トルコという地理的環境のゆえでしょうか

それにしても

罵り合いにせよ議論にせよ

なにせ会話の内容が面白いんです

議論は唐突に

悪への無抵抗など

キリスト教とイスラム教の

宗教的価値観の相違についてや

激しい不和を通して

貧富、男女、老いと若さ、論理と感情、生と死などの

哲学的命題

いわば様々な知的葛藤を

余すことなく浮かび上がらせます

そして夫と妻の間に

決定的な亀裂が生じたとき

ドラマはさらに一歩

動き出します

決して相入れることのない価値観

いつまでも終わることのない対話

それでも

共に生きていく

この映画の提示した世界観は

まさに

共生とは何か

その意味を

降り続ける雪

カッパドキアの絶景の中で

静かに問いかけます

ロシアのチェーホフとドストエフスキーの著作からの引用が見られる物語の骨子

時おり流れるシューベルトの静謐な旋律

対話と沈黙のコントラストに貫かれた

映画全体のトーン

ご存じベルイマン

いやあ

なんという格式でしょうか

3時間16分という長尺にもかかわらず

全然飽きさせず

むしろいつまでも

この世界に浸っていたいと思わせる

このジェイラン監督の手腕

その圧倒的に重厚なドラマ

う~ん

久々に対話そのものに引き込まれた次第です

こういう映画こそ

もっと観られるべきですね

傑作です



関連記事

  1. 読者登録のお返事がかなり遅くなってしまい、失礼しました。今後ともお世話になりますが、どうぞ、宜しくお願いいたします。