映画『蜜の味』
映画評
1961年製作のイギリス映画
『蜜の味』
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監督は
1950年代後半から60年代前半にかけて生み出された
イギリス労働者階級の若者をリアルに描いた映画群
「ブリティッシュ・ニュー・ウェイヴ」で名を馳せ
その後のイギリス映画界を牽引した旗手のひとり
トニー・リチャードソン(1928-1991)
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本作は
同監督作『長距離ランナーの孤独』(1962)と共に
この時代を象徴する作品のひとつと言っていいでしょう
ということで
『蜜の味』は
劇作家のシーラ・ディラニーが
18歳の時に2週間で書き上げ
世界的な評判を得た同名の戯曲の映画化です
イギリス、マンチェスター近郊の労働者の町ソルフォード
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女子高生のジョーは
下町のアパートで母親と2人暮らし
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場末の酒場の歌手をしている母は
次々と男を変えながら
ふしだらな生活を送り
あげく家賃滞納で
アパートを2人して夜逃げする始末
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母との諍いが絶えず
鬱屈した思いを募らせるジョーは
ある日、黒人の船乗りと知り合い
やがて2人は深い間柄になる
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しかし程なくして船乗りは
次の港へと旅立ち
彼女のもとを去っていく
…が
その時、ジョーは彼の子を身籠もっていた
新しい男を見つけ
家を出て行った母を尻目に
ひとり取り残されたジョーは
働いている靴屋でジョフリーと知り合う
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同性愛者の彼は
妊娠中のジョーに親切に接してくれ
そうして意気投合したジョーとジョフリーは
やがて共同生活を始めることになる…
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主人公のヒロイン、ジョーを演じる
リタ・トゥシンハムの
生命力に溢れた眼差し
その奥底には
どんな境遇にあっても
絶対に生き抜くんだという
強い意志が秘められています
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ふと
未成年にしてシングルマザーとなるヒロインや
黒人の船員、ホモセクシャルの青年、金持ちとの結婚を夢見る中年の母など
本作には
社会の周縁を生きる人物ばかりが出てきます
時折、悲哀が滲みながらも
しかしタッチは決して暗くない
むしろ明るくみずみずしい空気に溢れています
登場人物たちも
黒人やホモセクシャルの青年など
一見、ステレオタイプのようでいながら
その実
個性的で人間味のあるキャラ造形をなしています
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映画は
自然光によるロケーション撮影が多用され
もうほぼドキュメンタリーを観ているような
リアルな息吹を
観る者にもたらしています
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つくづく
1960年代当時における
階級社会、イギリスの
とある地方の
労働者階級の
ありのままの姿
生々しい現実
いやあ
自ずと湧き上がるジョーへの共感
ジョフリーが垣間見せる
同性愛者としての苦悩や愛情深さ
人間的な弱みを隠さない母親への同情
などなど
なんとまあ情感豊かで
そして優しい眼差しに溢れた映画でしょうか
というわけで
『蜜の味』
トニー・リチャードソンの才気が溢れた傑作
今さらながらおススメです
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