映画『スリー・ビルボード』
2017年製作のアメリカ映画
『スリー・ビルボード』
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監督・脚本・製作は
イギリスの新鋭マーティン・マクドナー
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彼は元々、イギリスで高い評価を受けている劇作家だけあって
映画作りにおいては
とりわけ脚本に定評があるとの話でしたが
いやいやいや
そんなレベルの話ではありません
本作は大げさでなく
映画における脚本のあり方を
新たなステージに引き上げる可能性に満ちた
終始、唸りっぱなしの2時間でした
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アメリカ、ミズーリ州のとある田舎町
さびれた道路に立ち並ぶ三枚の広告掲示板(=スリー・ビルボード)に
ある日
『レイプされて死んだ』
『犯人逮捕はまだなの?』
『なぜ?ウィロビー署長』
というメッセージ広告が掲示される
それは7ヶ月前に娘が何者かにレイプされ焼死体で発見されるも
いまだ犯人が捕まっていないことに対して
母親のミルドレッドがとった
警察への挑発的な抗議行動の表れだった
これによって静かで閉鎖的だった田舎町が
たちまち不穏な空気に包まれていき
やがて事態は思わぬ方向へと発展していく…
と
なんとなく観る前から
「猟奇殺人犯の逮捕に難航する警察を尻目に、ひとり犯人探しに奔走する母親の話」
といったストーリーを予想しがちで
母親を演じるのがフランシス・マクドーマンドなので
なおさら彼女が主演した
コーエン兄弟によるクライムサスペンスの傑作『ファーゴ』(1996)を
自ずと想起させられるし
あるいは、いっこうに捕まらない犯人探しに
泥沼のようにはまり込んでいく刑事たちの姿を追った
デビッド・フィンチャー監督の『ゾディアック』(2007)なども
つい連想しがちですが
ところがどっこい
長年染みついた映画の定石を
確信犯的にぶち破る脚本の妙とでもいいましょうか
映画は3人の主要登場人物
・母親のミルドレッド
・名指しされた警察署長ウィロビー
・ウィロビーの部下のディクソン巡査
…を中心に
観る者の予想を裏切り続ける驚きの展開で
小気味よく進行していきます
以下、ネタバレ注意
何より登場人物たちの人物造形、キャラ設定が面白い
犯人逮捕が進まないことに苛立ちを隠せない母親のミルドレッドがとる
エキセントリックなまでの行動と
それによる思いもよらない波紋
マクドーマンドが生活感や諦念を滲ませつつ
寡黙で強気なガテン系保守白人層の母親をリアルに体現
それでいて
時おり垣間見せる弱さや後悔の念が
確かな説得力を持って観る者の胸に迫ります
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そして警察署長を演じるのが
ウディ・ハレルソン
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このいかにも田舎の悪徳署長然としたハレルソンの
従来の(⁈)イメージを鮮やかに覆す誠実キャラぶり
彼は町の住民たちに慕われている人徳者で
さらには膵臓癌に侵され余命いくばくもない
住民たちは皆、署長の病状を気にかけていて
そんな署長を広告に名指しで糾弾したミルドレッドの方が
むしろ住民たちから非難されているほどです
って
強面のハレルソンが病や妻のことを思い煩い
ひとりむせび泣くシーンは
“してやられた”と思わずにいられませんでしたね
ハレルソンの人柄の良さが画面から滲み出ていて
これは意外だったなぁ
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またもう一人のキーパーソン
サム・ロックウェル演じるディクソン巡査が
これがまた面白い
マザコンで、暴力も厭わない露骨な人種差別主義者でありながら
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途中、あることを契機に
決定的に重大な転換点を迎えます
単純な善悪では括れないこうしたリアルな人物造形が
観る者を少なからず戸惑わせます
ホント安易な決めつけはいけませんね
本作は
先の読めないシュールでブラックな展開の連続で
とにかくポイントが掴みづらい
しかしあらためて映画は
一つの価値観やイデオロギーでは決して収まることのない混沌とした世界
一筋縄ではいかない複雑で多様化した現代社会の“いま”を映し出しています
そして本作は犯人探しを軸に進んでいきながら
“人と人はいかにしてわかり合うことができるのか”
というシンプルで普遍的なテーマを本筋としています
思い込みによる感情任せから生じる暴力の連鎖
人間の愚かさ、滑稽さ、誰しもが持っている内なる狂気
そうした人間の持つ負の側面、二面性
そこからあぶり出される忌避すべき本質を
他ならぬ自分の中に認めうることができるか
本作は看過できない命題を観る者に静かに突きつけます
そしてそれでも人は人に救われ、変われるということ
映画は決して解決することのない様々な矛盾を内包しながらも
この架空の田舎町を舞台に繰り広げられる
リアルな人間模様を通して
まさに“共生”のあるべきビジョンを提示してみせます
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何はともあれ脚本にこれ尽きますね
本作は終盤までいっこうに収束する気配を見せない
予測不能な展開ながら
的確な演出による節度あるトーンを終始保ち
最後は
明日への確かな予感を示唆する結末で締めくくられます
いやあ
マクドナーの手腕にとにかく脱帽です
CG全盛による過剰な映像が氾濫する今の映画界において
なんだかんだ一番先を進んでいるのではないでしょうか
映画の持つ力、影響の輪を押し拡げる可能性に満ちた
人間ドラマの力作
これは必見です
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