映画『ウォールデン』

1969年製作のアメリカ映画

『ウォールデン』

↓↓↓

blog_import_6442fbbf740b7.jpg

縦横無尽

無造作にせわしなく動き回るカメラ

低速撮影による早送り

コマ切れのような早いカット割り

う〜ん

片時も立ち止まることのない手ブレ映像ゆえ

目がチカチカして正直疲れる

しかし目の前に流れる映像を

時の過ぎ行くまま何も考えず

ただひたすらにボーッと観ていると

次第に目が慣れていって

ふと

まるで異世界に迷い込んだような

奇妙な感覚にとらわれる瞬間がある

この陶酔のひととき

↓↓↓

blog_import_6442fbbfcfa56.jpg

リルケの詩

エゴン・シーレの絵

ジェーン・バーキンの肢体

のごとく

映し出される映像は

絶えず震え

揺らめいています

画面の端々に息づく繊細で美しい叙情性

↓↓↓

blog_import_6442fbc12806c.jpg

監督は今年の1月に96歳で亡くなった

アメリカ前衛映画のゴッドファーザーとも称される

映像作家で詩人のジョナス・メカス(1922-2019)

↓↓↓

blog_import_6442fbc2959c2.jpg

故郷である東欧のリトアニアを

ナチスによって追われ

1950年代にアメリカへと亡命したメカスは

何の動機にかられたのか

借金をして購入した16ミリカメラを手に

ニューヨーク、ブルックリンの移民地区など

日常の自分を取り巻く周辺を

気の向くままに撮り始めます

彼が終生愛用した16ミリカメラのボレックス

↓↓↓

blog_import_6442fbc405988.jpg

そんなメカスが1969年に発表したのが

本作『ウォールデン』で

これは1964年から69年の間に

コツコツと撮りためたプライベートフィルムを

ただ単に時系列に並べただけの

3時間に及ぶ

いわばホーム・ムービーながら

映画史的には「日記映画」

という新たなジャンルを確立したとされる

まさに記念碑的な作品です

↓↓↓

blog_import_6442fbc57ac1f.jpg

詩人メカスによる映像詩の傍らには

いつもはにかみながら佇むメカス本人がいる

↓↓↓

blog_import_6442fbc7026ce.jpg

そして時折ボソボソと独白が入ります

「常に模索すべきだと言うが

私は目に映るものを礼賛するだけ

私は何も模索しない

幸福だ」

「近頃は夢を見ない

もはや覚えていないようだ

裸足で歩きたくない

部屋の中でもだ

ひどい細菌か

ガラスの破片を踏んでしまうのを恐れているようだ

テレビの音が聞こえる

窓が一晩中開いている

すべてを緩やかに失っているのか

私が外から取り入れたすべてを」

さらには

本作を端的に表した以下のナレーション

「さて、親愛なる観客の皆さん

()皆さんにはこの映像をただ見つめてほしい

特に何も起きない

映像は流れ

そこには悲劇もドラマもサスペンスもない

単なるイメージ

私自身と

その他の少人数のためのもの

見る必要のない人もいる

見なくたっていい

しかし見るべきだと思ったら

座って映像を見つめればいい

私が分かるのは

人生が続いていくように

映画も長くはそこに存在しないということだ

大洋の岸辺ののどかな小さな町も

やがてはなくなるだろう

朝の船もなくなるだろう

もしかしたら木も花もすべてなくならないとしても

今ほど多くはないかもしれない

これが『ウォールデン』

あなたが見ているもの」

おや

プライベート・フィルムながら

所々に見覚えのある顔が

実験映画の第一人者、スタン・ブラッケージや

デンマーク映画の巨匠、カール・テオ・ドライヤー

アレン・ギンズバーグらビートニクの詩人たちのリーディングの模様

ご存じ

ポップアートの鬼才、アンディ・ウォーホルや

彼のミューズ、イーディ・セジウィックなど

ファクトリーのメンバーたちによるパーティーの様子

ニコやヴェルヴェット・アンダーグラウンド結成時のライブ映像

そして極めつけは

ジョン・レノンとオノ・ヨーコによる

ベッド・インの映像などなど

↓↓↓

blog_import_6442fbc8784f6.jpg

映画は60年代ニューヨークのアートシーン

その先鋭的なアングラの息吹きを

しばしばプライベートの範疇を超えて

リアルに捉えています

つくづく歴史的、文化的にも

貴重な記録の数々ですね

あらためてメカスが映画界に残した

功績の最たるもの

それはハリウッドに代表される

一般商業映画だけにとどまらない

低予算の非商業映画の存在を

世に知らしめたこと

既成概念や世の常識

画一的な表現の殻を破る

異質で理解不能な実験映像や

個人的なフィルムの上映機会の提供などを通して

表現の自由度

価値観の多様性の

大幅な飛躍をもたらしたことではないでしょうか

まあメカス本人いわく

「インディペンデント映画に興味があったとか云々の話でなく、とにかくお金がなかったから、あり金で独立して撮るしか方法はありませんでした」

と、いかにも彼らしい言葉を述べています

というわけで

偉大なる映画作家ジョナス・メカスと

その類いまれなる偉業に敬意を表します

おまけ

映画批評のバイブルともいうべき書

『メカスの映画日記』

↓↓↓

IMG_0572.jpeg

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。