映画『奇跡』
前回書きました
既存のフレームをぶち壊す映画ですが
なにもネガティブなネタだけが全てではありません
今回は
文字通り
感情を激しく揺さぶるような
すごい映画をご紹介します
1954年製作
デンマークが世界に誇る巨匠
カール・テオドア・ドライヤー監督の
『奇跡』
↓↓↓
いやあ
ドライヤーといえば
映画史に残る古典
『裁かるるジャンヌ』があまりにも有名ですが
この監督は
自身が敬虔なクリスチャンというだけあって
神や宗教をテーマにした作品が多く
その中でも
本作はまさに
信仰とは何か?
を真正面から問うた力作です
僕はクリスチャンでもなんでもないのですが
正直、映画に関しては
宗教や信仰を扱ったドラマ
というジャンルの映画がとにかく大好きです
なぜかといいますと
これはテーマとも直接関連してくるからかもしれませんが
なにせこのジャンルの映画には
ある種
特別な空気感を漂わせた傑作が
数多くあって…
今回ご紹介の映画の中でも触れることになりますが
それはいわば
“聖性”
とでも呼べるような
そこに目に見えない何かを見るような
なんとも澄みきった
張りつめた空気感が
フィルムに刻印されているのを
認めるからなのかもしれません
って
これはなにも
神とか霊とかそういった話ではなく
よくよく
一流と呼ばれる映画には
大体備わっている
強度
特別な輝き…
う~ん
なんとも抽象的ですが
一本の映画に関わる多くの人たちによる
エネルギーが充満して
その“気”が撮影現場に宿り
それがフィルムに焼きつけられているような
そんなイメージです
まあ
神や宗教というテーマそれ自体の深淵さが
撮影やライティングも含めた演出に
ストレートに反映するので
こうしたジャンルが
なおさらそうした
形而上的な深みをたたえるのかなと推察できますが
そうはいいましてもこのジャンルは
テーマだけが先行し
表面的になぞっただけでは
嘘くささや陳腐さを拭うことはできず
そういう意味ではとっても難しい…
創り手の内実が問われる
つまりは
神に対する見解の質
…信仰心の有無や深さ、あるいは無神論ですらも
が最終的に明確な説得性を伴ってフィルムに反映されるという
まこと特殊なジャンルと言えるのです
もっとも、実際のところ
ドライヤーはカトリック信仰に対して
意識的に距離をとって創作にあたっていたそうなので
僕の見立ては必ずしも当たってはいないかもしれませんが…
おっと
ちょっと難しい話になってしまいましたが…
ということで
今回取り上げる『奇跡』ですが
ストーリーはいたってシンプル
農場を営む敬虔なキリスト教徒のボーエンと三人の息子
信仰心が持てないという真面目な性格の長男
神学に没頭し過ぎて正気を失ってしまった次男
宗派の違う仕立屋の娘と恋に落ちる三男
そして愛情深く聡明な長男の妻と幼い娘
物語は
三男の結婚を巡り
それぞれの宗派の対立と和解を描きながら
終盤
妊娠していた長男の妻インガが
難産の末に死んでしまい
それから
正気を取り戻した次男ヨハンネスが帰ってきて
死んだインガの棺の前で
神への祈りを捧げ
なんと
死んだはずの妻インガが生き返るという
奇跡を描いています
↓↓↓
う~ん
こう書くと
なんとも気恥ずかしいといいますか
胡散臭いといいますか
この僕の拙い文字面を追っかけていくと
はなはだ笑っちゃいそうなお話なのですが…
いやあ
とにかく騙されたと思って
一度御覧になってみて下さい…
↓↓↓
ラストで
妻が生き返る奇跡のシーン
↓↓↓
その迫真力とリアリティー
言葉で言い表すことのできないその深い精神性
画面に漂う崇高なる聖性…
観ていて
自然と涙が溢れてきます
映画の虚構性
あり得ないということがわかっていながら
なお
感情を揺さぶられずにはいられない
この映画の持つパワーとは一体…⁈
気が触れたとバカにされていた次男ヨハンネスが
最後に体現してみせる奇跡
それぞれの意地や思惑が先行し互いに反目し合う宗派などを描きながら
真の信仰心の意味
その本質を
観る者に突きつけます
ラストで
次男ヨハンネスが
死んだインガの棺を前にして
周囲の人たちにその信仰心の有無を問います
誰もが死んだ者が生き返るはずがないと言う中で
ただ一人
幼いインガの娘だけは
純粋に復活を信じます
ヨハンネスが娘に問います
「信じるのか」
↓↓↓
少女は静かにうなずき
やがて奇跡が起こるのです
無垢な心を持った者だけに宿る信仰心
ドライヤーは
そうした信仰とは何かという
深遠なるテーマを
過度な誇張なしに
どこまでも真摯に
映像で表現しようとしたのです
深い陰影をたたえたモノクロの映像が
ただ、ただ
美しい
人物の配置や散りばめられた小道具
印象的な丘のショット
↓↓↓
物語の進行するリズムなど
ラストに集約されるよう
計算され尽くしていることがわかります
そして
映画という物々しい機械仕掛けの装置
大勢のスタッフと
カメラや照明、録音機材などに囲まれたセットの中で
そうした精神性を表現するという
この背反性
問われる集中力
現場の空気感…
いやあ
もうただただ唸るしかありませんね
これこそまさに奇跡
至高の映画です
その場のストーリーだけを聞いていると、かなり怪しく感じられますが、作品全体から見れば芸術性を感じることが可能なんですね。勉強になりました。
>(株)第二営業部さん
まさしくそうなんですよ(^_−)−☆
コメントありがとうございました!