映画『アンナ・マグダレーナ・バッハの日記』

映画評です

1967年製作の映画

『アンナ・マグダレーナ・バッハの日記』

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監督は40年以上にわたって共同で映画製作を行い

私生活においてもパートナーの関係にあった

フランスのジャン=マリー・ストローブ(1936-):夫と

ダニエル・ユイレ(1936-2006)

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ストローブ=ユイレ

という通称で知られるこの監督夫妻が生み出す

極めてストイックな作風

その特異な世界観

フィルムの独創性は

まさに他の追随を許しません

ストローブ=ユイレの名を一躍世界に知らしめた本作は

バロック音楽の大作曲家J・S・バッハの後半生を

二番目の妻アンナ・マグダレーナを通して描いた

いわば伝記映画です

映画それ自体は

ほぼバッハの演奏シーンと妻による日記の朗読のみで(一部再現シーンあり)

それを延々繰り返すという極めてミニマルでシンプルな構成

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一見するとただ単調なだけの映画のようですが

なんのなんの

特筆すべきは

映像の持つ真実味

迫真性

そしてため息の出るような美しさです

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演奏に用いられた古楽器や衣装、調度品などはすべて本物で

当時のオリジナルのものを使用

そうしたせいもあってか

まるで18世紀当時の、実際の映像を目の当たりにしているような

ある種の錯覚

リアリティに満ちています

古楽器演奏の大家として知られる

グスタフ・レオンハルトが大バッハを演じる他

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一流の音楽家たちが勢揃い

素晴らしい演奏を披露しています

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そして自然光を巧みに取り込み

遠近法を多用した奥行きのある画面構成が

中世の絵画を思わせるような、端正で神秘的な映像を創出

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また斜めの構図が特徴的で

カメラはほぼ動かないながらも

例えば演奏するバッハを肩越しに捉えたバストショットから

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カメラがゆっくりと引いていき

楽団全体をとらえるに至るなど

秀逸なカメラワークが所々で見受けられます

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と演奏の合間に

バッハの回想をドラマで再現するシーンが

唐突に挿入されるのですが

こう、なんというんでしょうか

シーン自体がとても形式

人物たちはおよそ無機質で人間味を感じさせません

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大胆に排された情緒

ドラマ性の欠如と

相反するかのごとき

演奏シーンの豊饒さ

溢れる人間味

この饒舌なまでの音楽です

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人物たちのセリフも表情も演技すらも排し

しかしブランデンブルグ協奏曲を初めとするバッハの一連の演奏を通して

すべてを物語って余りある

この鮮烈なコントラスト

つくづく

なんという映画的な妙味でしょうか

さらには自然光に照らされた潔癖な画面構成をはじめ

モノクロの慎ましい映像から漂う宗教色

崇高なまでの精神性

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いやあ

まさに映画芸術の真髄ここにありですね

というわけで

なかなか観る機会が少ないストローブ=ユイレですが

近年、日本でも度々特集上映が組まれています

知る人ぞ知る

この稀有な映画作家に今更ながら注目です

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