映画『ヴァンダの部屋』

2000年製作
ポルトガル・ドイツ・フランス合作の
『ヴァンダの部屋』
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監督はポルトガルの鬼才
ペドロ・コスタ(1958-)
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上映時間180分に及ぶ
衝撃のドキュメンタリーです
ポルトガル、リスボンのフォンタイーニャス地区
アフリカからの移民が多く暮らすこの一画では
再開発の工事が進み
日々建物が取り壊されている
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退去を求められる
ここスラム街の住人たちは
家々が破壊されていっているにもかかわらず
立ち退く気配がなく
自分たちの生活を一向に変えようともしない
映画は
そんな住人のひとり
野菜売りを生業とする
ヴァンダ・ドゥアルテにスポットを当て
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ヴァンダをはじめ
彼女の妹や母、また居候している(⁈)黒人の青年たちが
貧民街の劣悪な環境で生きる様を
淡々と
ありのまま映し出します
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コスタ監督は
自ら2年間に渡って
ここスラム街で共に生活しながら
狭い部屋で麻薬を吸引し続けるヴァンダと
彼女を取り巻く住人たち
そして瓦解していく住処を
固定されたデジタルカメラに収め続けます
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ここには
誇張も
脚色も
批判も
憐憫も
何もない
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忙しなく飛び回る蝿をよそに
ヴァンダは
ベッドに居座りながら
ヘロインを吸い
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しばしば激しく咳き込んで
唾液がベッドに滴り落ちるのも構わず
それでもヘロインを吸い続け…
時折
口笛を吹いて
編み物に勤しみ
身内や周囲の人々と会話する…
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時の移ろうままに
彼女の日々の営みを
そして再開発によって
建物が取り壊されていく様を
重機の騒音が絶えない過酷な日常を
それ以上でも
それ以下でもなく
映画は
ただ
映し出します
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暗くて薄汚れたヴァンダの部屋
闇に埋もれた中で
わずかに自然光が差し込むその風情に
絶望の中から希望を見出す
…的な連想をしがちですが
そんなロマンティシズムが介在する余地は
少なくとも
このフィルムには微塵もありません
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まるで
ブニュエルの『忘れられた人々』(1950)のように
ただ
ひたすらにもう
ヴァンダの刹那的な生活や
いわばモノホンのジャンキーたちの
明日をも知れぬ日常を
カメラは捉え続けます
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と
それにしても
目を見張るは
この暗澹たる現実を映し出した映像の
なんたる強度
コスタ監督が2年にわたり撮影をしてきた中で
自ずと生まれた
撮る側と対象との
ある種の一体感
たしかな信頼感…
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そうして刻印されたフィルムは
まったりと生々しく
生活の細部に至るまで
その赤裸々な姿が
監督の意志にかかわらず
容赦なくさらされ
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さらに映画は
光と影のコントラスト
そこに生きる人々のリアルな相貌を捉えることで
その気の遠くなるような長回しと相まって
時折
思わぬ異化作用を観る者にもたらし
まるで深い陰影に富んだ
レンブラントの絵画を鑑賞しているような気にさせられます
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つくづく
詩的で
静謐で
う〜ん
正直
なんて美しいのでしょうか
つい観入ってしまいます
リスボン郊外のスラム街で
貧窮にあえぐ人々の
絶望的な生活風景に
そのような印象を抱くこと自体
不謹慎なことを承知の上でなお
映し出された映像には
神秘的で濃密な
純度の高い空気が横溢し
何より
聖性が画面に注がれているのです
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う〜ん
なんてすごい映画でしょうか
というわけで
『ヴァンダの部屋』
ポルトガルの現実の一断面を捉えた
ペドロ・コスタの真摯な眼差し
いやあ
あらためて
無二の傑作
是非とも必見です
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