映画『天使の影』
ドイツ・ニュージャーマン・シネマの鬼才
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選が
先月まで渋谷で開催されていまして
先日
そのうちの一本を
待望の初鑑賞
1976年スイス製作の
『天使の影』
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監督はスイスの至宝
ダニエル・シュミット(1941-2006)
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本作は
ファスビンダーが
自身の代表的な戯曲
『ゴミ、都市そして死』を脚本化し
親友だったシュミットが映像化した作品で
日本では劇場初公開となります
いやあ
嬉しいかぎりでしたね
…
戦後のドイツ、フランクフルト
寒空の街角に立つ娼婦リリーは
その厭世的な性格から仲間内では浮いた存在
家に帰れば
ヒモのラウールに金をせびられる始末
そんなある日リリーは
闇社会の大物ユダヤ人に見初められ
彼に囲われることになる
やがて夫はゲイとして家を出ていく
そうして彼女自身
次第に破滅願望が強くなっていく
…
暴力をもってしか妻と接することができない夫
そんな夫に依存して生きるしかない娼婦の妻
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また闇社会を牛耳るユダヤ人
その部下で“小人“と名乗るスキンヘッドの大男
女装してステージに立つ元ナチスの高官の父親
などなど…
本作は
社会の底辺やダークサイドを生きる
特異な人物たちによる
絶望に満ちた
ファスビンダー的物語世界が
縦横無尽に展開するも
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う〜ん
しかし
ファスビンダーとは明らかに異質な
独特のムードに
全編貫かれています
詩的で哲学的なセリフ
過剰で誇張された身振りなど
多分に演劇的で観念的なムード
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官能性なオペラの音色
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時間の流れを希薄にする濃密な空間設計
レナート・ベルタによる
流麗で幻惑的ですらあるカメラワーク
それによってもたらされる
オペラ的なリズム
そうした諸要素が組み合わさって創出される
独特の様式美
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これはまぎれもない
耽美派として知られた
シュミット特有の世界観で
本作は
そんなファスビンダーとシュミットの
化学反応によって
もたらされた産物と言えましょうか
主演は
ドイツの女優
イングリット・カーフェン(1938-)
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彼女はかつて
ファスビンダーと2年ほど婚姻関係を結んでいて
彼の作品はもちろん
同じ仲間だったシュミットの作品にも
数多く出演し
むしろシュミットの映画で
特異なヨーロッパ的退廃美を体現
漂う妖気
悠然とした様
まさに死へと誘われていく過程における
ふとした感情のひだを
虚ろな表情や実存的な佇まいで
見事に表現しています
さらに
ファスビンダー自身が
粗野なヒモ男を熱演しています
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全編にわたり
絶えずつきまとう死の予感
寒空に覆われたドイツ
経済発展の傍ら
現代を生きる人々の精神に
いまだ根深く巣食うナチスの影
つくづく
ファスビンダーの荒々しくも繊細な抒情性と
シュミットの虚無的で夢幻的な洗練が
絶妙な形で融合しています
いやあ
圧巻ですね
というわけで
まこと稀有な一作
『天使の影』
これは傑作です
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おまけ
今回の傑作選で
他に上映された2本とも
僕が以前本ブログに書いていまして
こちらも合わせてご紹介
◎『マリア・ブラウンの結婚』(1979)
↓↓↓
以前書いた記事は→こちら
◎『不安は魂を食いつくす』(1974)
↓↓↓
以前書いた記事は→こちら
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