映画『バーニング』
先日フィリピンへ行った際の飛行機の中で観ました
2019年公開
『ペパーミント・キャンディー』で知られる名匠
イ・チャンドン監督の韓国映画
『バーニング』
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公式サイトは→こちら
本作は村上春樹の短編『納屋を焼く』の映画化ですが
原作を大幅に改変しているんだそうです
おおまかなストーリーを以下に記載
…
小説家を目指しながら
バイトで生計を立てるジョンスは
街中で偶然、整形して別人のように見違えった幼なじみのヘミと出会う
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その日の夜、二人は夕食を共にし
その場でヘミはミカンを食べるパントマイムを
ジョンスに披露する
彼女いわく、パントマイムのコツは
“そこにミカンがあると思うことではなくて
そこにミカンがないことを忘れること”
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やがて二人は親密な関係になるのだが
彼女は自分がアフリカ旅行に行っている間
自宅にいる猫の世話をジョンスに頼む
そしてヘミは旅行へ行き
そこで出会ったという男ベンと一緒に帰国する
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ベンは若いながらも大変裕福な生活をしていて
その素性がちょっと謎である
ある日、ベンは
ヘミと共にジョンスの家を訪れた時
自分の秘かな趣味をジョンスに打ち明ける
“僕は時々古いビニールハウスを燃やしている”
“実は今日、この近くにある、燃やす目星をつけたハウスの下見に来た”
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と
ベンから秘密を打ち明けられたこの日を境に
ヘミは忽然と姿を消してしまう
懸命に彼女の行方を探すジョンスだが
ヘミは電話にも出ず
マンションの部屋もすっかり空状態…
ベンの言動に不信感を抱いたジョンスは
やがて彼の後を追い始め
そして…
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う〜ん
なんとも奇妙な映画です
まるでイタリアのアントニオーニの映画を観ているような
不条理に全編満ちています
ストーリーも不可解な要素が多過ぎます
ヘミが飼っている猫は
ジョンスの前に一度も姿を現さない
ヘミが幼い頃、井戸に落ちた時にジョンスに助けてもらったそうだが
ジョンス自身もいまいち覚えてなく
また地元の人に聞いても、そんな井戸はなかったと言う
ベンはジョンスの家の近くのビニールハウスをすでに燃やしたと言うが
ジョンスが近くのハウスを全部調べた限り
燃やされた形跡はない
などなど…
曖昧な記憶の断片
何が事実なのか
およそはっきりしない
その最たる例が
幼なじみへミの存在
偶然再会し親しくなった後の
謎の失踪…
一体全体
彼女はなぜ消えたのか?
ふと
整形して見違えったヘミは
本当に、あの
自分が知っている幼なじみのヘミなのか?
そもそも何より
ヘミは本当に存在していたのか?
上述のパントマイムの話がつい脳裏をよぎりますが
もとより存在するって
一体どういうこと?
ああ
ますますわからなくなってきた
突きつけられる実存的な命題
おや
ベンの自宅マンションの廊下に飾られている
ジャコメッティの銅像の絵が
象徴的に物語っていますね
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不安に苛まれるジョンスの中で次第に募る
ベンへの疑念
“誰も気に留めないビニールハウスを燃やす”というベンの言葉が
ヘミの失踪と自ずとオーバーラップする…
真相を明らかにしようと
ひとり奔走するジョンス
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ベンが怪しいと思われる要素は
劇中、なくもない
が、しかし
映画はそんな犯人探しに終始するほど
薄っぺらくはない
そもそもいつも悠然としていて優しく微笑むベンとは一体何者なのか⁈
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あらためてこの映画は
“存在”を巡る物語です
現代のネット社会における仮想と現実の
境界線の曖昧さ
その存在の不確かさ
何が現実で、何がバーチャルなのかが
ますます希薄になっている現代社会
つまるところ本作は
およそ生活感のない
“グローバル経済”の申し子であるベンと
どこまでも泥臭くてリアルな
“実体経済”を体現するジョンスを通した
いわば“バーチャル”と“リアル”の攻防を
様々なメタファー(=隠喩)を散りばめなら描いているのです
決して晴れることのない
謎に包まれた不合理な世界
不穏な空気に覆われた韓国の田舎社会
そこに呼応するかのように
徐々にくぐもっていく
ジョンスを取り巻く日常
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確かなものは何もない
そんなおぼろげな記憶をたぐり寄せながら
やがてジョンスは
ヘミの存在を確信するに至ります
彼女と愛し合った時のリアルな肌触り
天真爛漫で、しかし脆くて儚い生身の姿
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ラスト
実体の何一つ定かでないこの世界で
ヘミを唯一確かな存在と捉えるジョンスがとった
己の存在証明ともいえる決定的な行為
う〜ん
観る者の想像力をいやが応にも掻き立てる
意表をつく展開
監督の巧妙で周到な演出によってもたらされる、ある種の罠…
いやあ
韓国映画ってやっぱ面白い
主要キャスト3人の完璧なアンサンブルによって織りなされる
美しくミステリアスで闇に覆われた映画
いつまでも脳裏にこびりついて離れない
その魅惑の世界観に
う〜ん
とにかく酔いしれること必至
傑作です
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