映画『シン・レッド・ライン』

1998年製作のアメリカ映画

テレンス・マリック監督の

『シン・レッド・ライン』

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テレンス・マリックといえば

1970年代に撮った

『バッドランズ/地獄の逃避行』(1973)

『天国の日々』(1978)

2本が

いずれも映画史に残る傑作とうたわれながら

以後ぱったりと姿を消したことで知られる

伝説的な監督です

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そうして時が流れること20

長い沈黙の末にようやく発表されたのが本作です

彼は元々、大学で哲学を専攻していた経歴があり

この空白の20年間は

主にフランスで哲学の教鞭をとっていたそうです

ということで

全世界待望の復帰作は

第二次大戦下のガダルカナル島を舞台にした

上映時間171分の戦争叙事詩

しかしなんとも不思議な映画です

ストーリーは

主にガダルカナル島で

高地を陣取る日本軍の拠点を奪取すべく

奮闘する米兵たちの様を描いたもの

タイトルのシン・レッド・ラインとは

細く赤い線という意味だそうで

いわば極限状況で兵士たちが直面する

正気と狂気のギリギリの境目といったニュアンス

ですが

う~ん

苛烈を極め

狂気の中で無惨に死んでゆく兵士たちの姿を捉えながらも

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その映像に

彼らの内面の声(=独白、モノローグ)がかぶさることで

ある種の無常観が全編を覆います

映画全体のトーンは

どこか醒めていて淡々としています

ここで

兵士の1人のモノローグを引用

「こびりつく戦闘の恐怖

それに慣れることはない

戦争が人を気高くする?

人間を犬畜生にする

そして魂を毒する」

特筆すべきは

激戦の舞台となったガダルカナル島の

自然の

この目を見張る美しさです

マリックの映画に底流する思想の一つは

自然の中に

神を見出すという視点です

少なくともこの映画の中の自然は

絶対的な美しさを誇ります

島に住む原住民たちの無垢な姿や

自然の中に棲息する様々な原色の野鳥やワニ、コウモリ、フクロウたち

また兵士たちにまとわりつく風にそよぐ草木などなど

そして極めつけは

マリック映像の代名詞とも言うべき

夕暮れどきのマジックアワー

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本当に美しい映像に満ち溢れています

森羅万象に神が宿っているというイメージ

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つまりは

戦争という人類が犯した愚業と

圧倒的な自然との

この鮮やかな対比です

さらに兵士の1人のモノローグを引用

「この大きな悪

どこからきたのか

どこからこの世に?

どんな種、根から生まれたか

背後に誰が?

おれたちを殺し

生と光を奪っているのは誰か

おれたちの死が地球の糧に?

草を成長させ太陽を輝かせるのか?

あなたの中にもこの闇が?

あなたにも苦悩の夜が?

う~ん

あなたとは一体誰でしょうか?

人間も含めた自然界そのものを

一つの大きな存在と見たてた視点

あなたとは

すなわち

さらに哲学的な思索が続きます

「人間は一つの大きな魂を共有しているのか

幾つもの顔を持つ1人の男なのかも

誰もが魂の救済を求めてる

人間は火から取り出されたら消える石炭」

本作には

明らかな主人公が設定されているわけではなく

何人かの主要人物を並列的に描くことで

全貌を捉えるという

群像劇の手法をとっていますが

(豪華キャスト揃い踏みです)

これはまさしく

細部を通して一体をなすという

大きくは

神の視点と

そんな数々の登場人物たちの中で

一人異彩を放つ兵士がいます

ウィット二等兵です

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彼は脱走を繰り返し

いっとき島の原住民たちと生活したりするも

上官からは可愛がられている風変わりな男

でもなぜか本編の中のほとんどの戦闘場面に

いつも居合わせます

時には仲間の兵士の死を看取ったり

作戦部隊の一人として突撃に加わったりします

決して中心となる存在ではなく

あくまで傍らに寄り添うスタンスです

演じるジム・カヴィーゼルの

鹿のようにピュアな瞳がひときわ印象的ですが

う~ん

僕は個人的に

このウィット二等兵は

神の使い

のような役割を果たしているように思います

戦争という蛮行の

目撃者

証人

(=自然)と人類という

聖と俗をつなぐ

触媒的な存在

そうしてやがて

彼は日本兵に取り囲まれ

あたかも人類のを償うかのように

あえて戦闘態勢をとることで銃殺されます

ラストの兵士のモノローグ

「光が生む暗闇

愛が生む闘い

1つの心が生むものなのか

同じ1つの顔の目鼻?

僕の魂よ

僕を君の中へ

僕の目を通して

君が作ったものを見るがいい

輝けるすべてのものを」

ウィット二等兵が求めてやまないあり方

自然との融合

いわば

共生

その象徴としての

原住民の子供たちと海で泳ぎ戯れる記憶

静かに立ち上がってくる普遍

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う~ん

なんという切なさ

そして崇高さでしょうか

この広い宇宙に

生かされているという意識と

そのことに対する感謝の念が

穏やかな余韻と共に

自然と湧き上がってくるのを覚えます

この壮大にして稀有な世界観

いやあ

あらためて

本当にすごい映画です

テレンス・マリック監督恐るべし

ちなみに

前作はどちらも傑作ですが

2作目の『天国に日々』は圧巻でしたね

一日わずか10分足らずしかないという

マジックアワーだけを狙って

撮影を繰り返したという

その奇跡のような

美しい映像が堪能できます

神話的な世界が構築された傑作です

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  1. 哲学と映像美にトランスパーソナル心理学がプラスされたような映画なんですね。
    その美しさを観てみたいと思わせる文章力、いつもながら流石です。

  2. チョー!

    >(株)第二営業部 教授さん
    コメントありがとうございます(^^)。
    まあ観る人によっては、観方がかなり変わる映画だと思います^_−☆