映画『ときめきに死す』

異色の日本映画です

1984年製作の

『ときめきに死す』

↓↓↓

blog_import_64430491f11f8.jpg

監督は日本が世界に誇る奇才

森田芳光(1950-2011)

↓↓↓

blog_import_6443049244795.jpg

自称医者の男は

謎の組織から

素性も知らないひとりの男の世話をする仕事を引き受ける

その男、工藤は

寡黙で酒もタバコもやらず

ただひたすらトレーニングに励む毎日

ある日

組織から梢(こずえ)という若い女性が派遣され

北海道の別荘でつかの間

3人の奇妙な共同生活が始まる

↓↓↓

blog_import_64430498e7e6f.jpg

工藤の正体は実はテロリストで

彼は組織からの暗殺指令を待っていた

やがて指令が下されるのだが

暗殺対象者は

町で勢力を伸ばしつつある新興宗教のトップ

谷川会長だった

丸山健二の同名小説を

大幅に改変した森田ワールド全開の一作

終始、悠然とした空気感をたたえたテロリストに沢田研二

↓↓↓

blog_import_6443049371efd.jpg

ブラックな存在感が光る

ストーリーの語り手である

自称医者の杉浦直樹

↓↓↓

blog_import_64430494c6f9f.jpg

そして梢を演じる若き樋口可南子を加えた

3人のアンサンブルが生み出す

シュールな世界観

↓↓↓

blog_import_6443049623d81.jpg

冒頭

広角で捉えたピンボールの玉の行方を追う

いかつい男たち

↓↓↓

blog_import_644304979c1e7.jpg

コンピュータのブラウン管に表示された

無機質な文字

突然の豪雨に見舞われる白装束の集団

一見なんら関連性を見出せない映像が

次々と映し出され

う〜ん

のっけからあざといまでの意表を突く展開で

まったく先が読めません

全体的にはどこかチープで

古臭い印象を拭えなかったりしますが

よくよくこれは

80年代の空気を鋭敏に察知した

森田の感性の産物と捉えてしかるべきでしょう

何より主演の沢田研二という存在自体が

なんともレトロで

でもむしろこの時代のいま

これ以上なくリアルに感じとることができます

またそもそも

タイトルのときめきなんて言葉

小っ恥ずかしくて今どき使わないなぁ

現在においては

まずダンシャリのときくらいしか耳にしない言葉ですかね

ふと

主人公はストイックで

シンプルな生活習慣を貫いていて

↓↓↓

blog_import_6443049a35f1d.jpg

例えば食事中

余計な場所に点灯しているライトを

無駄だからと消したりします

あらためて80年代とは

過剰の時代、足し算の時代

物が氾濫し

盛んな消費で人々が世を謳歌した

バブルの時代

またコンピュータが普及し始め

本格的なデジタル化の波が押し寄せようという胎動期

そうした時代背景の中にあって

しかし主人公はあくまで真逆のベクトルで

抑制、引き算、アナログな生き方を志向し

必要なものだけで生活している

そう考えますと

なるほど沢田研二演じる工藤の価値観

その世界観を

端的にときめきと表現していると解すれば

しっくりきますかね

↓↓↓

blog_import_6443049bac5af.jpg

それはそうとクライマックス()

暗殺シー

あれだけ鍛錬を積んで

準備に余念がなかったわりには

あまりにあっけない

町にやってきて

人々から歓待を受ける谷川会長に近づき

実行しようとするも

いとも簡単に取り巻きに押さえられ

未遂に終わってしまう

↓↓↓

blog_import_6443049d44213.jpg

しかし

なんですよ

映画はラストで

 

それまでの抑制されていたトーンから

一気に解き放たれます

(ネタバレになりますが…)

沢田研二のあまりに壮絶な最期

ハハハ

何なんだこれは

というくらい過剰な

ありえない量の血しぶき

およそ現実味がなく漫画チックな

しかしそれでいて

観る者を激しく動揺させる

したたかな演出の妙

思わず唸ってしまいましたね

いやあ

つくづく森田芳光は天才肌の監督でしたね〜

代表作の『家族ゲーム』(1983)は言わずもがなで

↓↓↓

IMG_0551.jpeg

この人は日本では稀に見る作家性

何より映像に対する

明確なビジョンを持っていました

森田のフィルモグラフィーは

大衆娯楽系とアート系を

行ったり来たりしていて

その振り幅の大きさに

まずもって驚かされますが

本来やりたかったであろう

一癖も二癖もある森田ワールドを

是非どんどん推し進めてほしかったなぁ

後年は

次第に大衆娯楽映画に傾倒しがちで

まあ正直

易きに流れた感を否めませんでしたね

しかしそんな中で

1999年に立て続けに発表したこの2本は

凄い映画でした

39/刑法第三十九条』(1999)

↓↓↓

IMG_0549.jpeg

『黒い家』(1999)

↓↓↓

IMG_0552.jpeg

これぞ森田芳光

近年のポン・ジュノやパク・チャヌク、ナ・ホンジンなど

ただいま世界を席巻する韓国映画の

まさにお株を奪う

強烈なビジュアル表現と

ダークでアブノーマルな世界観

類まれな才能と実力がありながら

存分に力を発揮することなく

61歳で亡くなってしまい

まったく惜しいかぎりです

というわけで

本作『ときめきに死す』は

森田の底知れぬ才能がいかんなく発揮された怪作です


関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。