映画『永遠の語らい』

2003年製作

ポルトガル=フランス=イタリアの合作映画

『永遠の語らい』

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監督は106歳で亡くなるまで

長らく現役最高齢の監督として

映画界に君臨したポルトガルの巨匠

マノエル・ド・オリヴェイラ(1908-2015)

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いやあ

目を見張るはそのキャリアです

オリヴェイラは実に70歳を過ぎた1980年代から

12年に1本のペースで作品を発表

その創作意欲は晩年に至るまで衰えを知らず

亡くなる前年の105歳まで撮り続けたのですから

ホント恐るべしです

しっかしこの監督の映画は

なかなかどうして難攻不落で

時折いや

しばしば意味不明

山に例えるなら踏破するのがかなり困難です

オリヴェイラの出自であるポルトガルは

ヨーロッパの最西端に位置するスペインと大西洋にはさまれた小国ながら

かつては海上帝国として世界の覇権を握っていた時代もあります

オリヴェイラは

そうしたポルトガルの有する

特異な歴史観や多元的な価値観をバックボーンに

西洋史の文脈を、正負を問わず大胆な解釈で捉え

まこと不可解で謎めいた作品世界を構築していきます

う〜ん

テーマも多岐に渡っていて

よくよくこれは現在89歳のゴダールをも上回る難解さかもしれません

ふとそれは

そもそも僕らアジア人が容易に理解できない

西洋の特殊な事情であったり

何より超高年齢というある種、未知の領域に達した

オリヴェイラ監督にしかわかり得ない境地であったりします

まあそんなわけでして

本作『永遠の語らい』ですが

いやはや

突拍子もない映画です

何がって

まあまあまあ

本作は大きく2つのパートから成り立っています

前半は、さながら観光地巡りの歴史紀行

ポルトガルの大学教授の女性が

幼い娘と共に

インドにいるパイロットの夫に会うため船の旅に出ます

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航海の途中、寄港先の数々の遺跡を巡りながら

数千年に及ぶ地中海文明の悠久なる歴史を

好奇心旺盛な娘に教えていきます

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そして後半は、船中でのひととき

ジョン・マルコヴィッチ演じるアメリカ人船長や

カトリーヌ・ドヌーヴ演じるフランス人やギリシャ人、イタリア人の船客たちが

卓を囲みながら

それぞれの母国語を通してコミュニケーションを図っていきます

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途中、ポルトガルの女性教授と娘が

4人の輪の中に加わるのですが

多言語による会話が成立しなくなり

結局英語での疎通に収束したりします

とまあ

全編ここまでは

なんとも優雅なトーン、緩慢なペースで進行していたのが

終盤に入って

突如、モードが一変

不測の事態へと直面します

(以下、ネタバレ御免)

なんと

テロリストによって

船に爆弾が仕掛けられていることが判明

たちまち船内は大騒ぎとなり

そうして程なくして実際に船が爆発

悲鳴と共に逃げまどう乗客たち

燃えさかる船

その光景をただ呆然と見つめる船長

一体何が起こったのか容易に判別ができない

そんな驚愕と戦慄の入り混じった表情を浮かべる船長のアップが

ストップモーションとなり

そこにエンドロールが流れ

映画は終了となるのです

う〜ん

この唐突で衝撃的なラストにはただ面食らうのみで

観ていて少なからず戸惑いを隠せません

本作は2001年に起きた9.11アメリカ同時多発テロの後に撮られていまして

オリヴェイラはこれまで営々と築き上げてきた西洋文明が

何の前触れもなく

テロによって一瞬で瓦解してしまう恐怖

理不尽でおよそ理解不能な様を

この映画で表現したと言われています

それまでのアカデミックで機知に富んだ本作の過程は一体何だったんだろう

ひたすら虚しさだけが尾を引く後味の悪い結末

ヨーロッパの知性、品格は

テロという暴力を前にしてなすすべもない

つまり本作は

製作当時94歳だったオリヴェイラ監督が抱いた

深い危惧の表出だったのです

これって

新型コロナウイルスの猛威に突如さらされ

それまで当たり前に享受していた平穏な日常や秩序がたちまち失われていく現状を

自ずと想起させないでしょうか

というわけで

本作のテーマから

混乱の渦中にある世界の今を

思わず垣間見てしまった次第です

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