映画『蜘蛛女のキス』

1985年製作

ブラジルのヘクトール・バベンコ監督の

『蜘蛛女のキス』

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ウィリアム・ハートが

この年のアカデミー主演男優賞を受賞した

言わずと知れた名作です

南米のとある刑務所で

同じ監房に入れられている対照的な二人の男

ラウル・ジュリア演じる

反体制運動の闘士バレンティンと

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ハート演じる同性愛者のモリーナ

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ヴァレンティンは

モリーナからの好意をはじめは避けていたが

モリーナが昔観た映画の話を語って聞かせたり

拷問に苦しむヴァレンティンに献身的に尽くしたりして

交流を重ねるうちに

2人は次第に心を通わせていくようになる

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モリーナは刑務所長から

ヴァレンティンのいたゲリラ組織に関する情報を聞き出すよう命じられていたものの

ヴァレンティンへの愛情の深さゆえ

到底情報を聞き出すことなどできない

しかたなく所長はモリーナを仮釈放処分とし

出所したモリーナが

ヴァレンティンの仲間のゲリラと接触することを期待しようとする

すでに強い絆で結ばれていた2人だが

仮釈放となる前夜

ヴァレンティンはモリーナの思いに応えて結ばれる

そしてモリーナ出所の際

ヴァレンティンは自分が所属していたゲリラへの伝言を依頼する

あらためて本作は

大半が牢獄の中で繰り広げられる密室劇です

暗く沈鬱で閉ざされた空間

辛い拷問が待ち受ける厳しい現実

そこからいっとき目を背けるように

モリーナによって語られる映画の空想

物語が喚起する想像に満ちた世界

との

この鮮やかな対比

モリーナが語る映画の話は

ナチスの将校に恋をして悲劇の死を遂げる歌手の物語

劇中劇となっていて

時折、淡いセピア色のシーンが挿入されます

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ストーリーの中には

モリーナのヴァレンティンへの想いがまんま投影されていたり

また2人のその後の展開が暗示されていたりして

う〜ん

重層的な構造が興味深いです

想像力はさらに飛躍して

モリーナはもう一本の不思議な映画の話を始めます

とある島に住む

自分が作った蜘蛛の巣に囚われて身動きができない蜘蛛女と

そこに流れ着いた男との美しく儚い愛の寓話

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これは精神的にも物理的にも不自由な

2人の境遇の端的な表現ですね

つくづく本作は

原作がラテン文学の巨匠マヌエル・プイグの同名小説だけあって

夢と現実が入り乱れた

中南米のマジックリアリズムの伝統に則った

奇妙で豊穣な世界観が

全編、シュールに展開していきます

内と外

閉塞感のある密室と解放的な空

厳しい現実と理想の姿

その狭間で得る生の実感

互いの思いがせめぎ合う濃密でリアルな息づかい

ミニマルなシチュエーション設定の中で

価値観も何もかも違う男たち2人が

生きる意味をまさぐっていき

ある種の愛情で結ばれていく様を

繊細な感情の機微を捉えながら

丁寧に紡いでいきます

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主演の2人が何せ抜群の相性で

トランスジェンダーを演じたハートの

見事な女っぷりが最高です

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さらには

モリーナが語る2つの映画のヒロインと

現実でヴァレンティンが愛する女性の3役を演じた

ソニア・ブラガが

エキセントリックな魅力で独特の存在感を放っています

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ラスト

悲惨な最期を遂げるその瞬間まで

ヴァレンティンへの愛に生きたモリーナ

その想いが届いたのか

刑務所内で厳しい拷問を受け

死の間際にいるヴァレンティンが

薄れゆく意識の中で見た夢

それはヴァレンティンが蜘蛛女となったモリーナと結ばれて

幸せに暮らす夢だった

いやあ

なんとまあ

多元的な要素に溢れているのでしょうか

真実の愛を示す象徴的なラストシーンですね

バベンコの卓越した演出が光ります

というわけで

『蜘蛛女のキス』

美しい幻想に彩られた人間ドラマの傑作

オススメです

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