映画『ドライブ・マイ・カー』

Amazonプライムで視聴

3時間もの長尺ですが

いやあ

観始めたらつい引き込まれて

結局最後まで観ちゃいましたね

この監督、やっぱり面白い

2021年の日本映画

『ドライブ・マイ・カー』

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監督は期待の俊英

濱口竜介(1978-)

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米アカデミー賞の国際長編映画賞はじめ数々の賞を受賞した

言わずと知れた話題作です

舞台俳優兼、演出家の家福悠介は

脚本家の妻・音と満ち足りた日々を送っていた

しかし妻はある秘密を残したまま

突然この世を去ってしまう

2年後

広島の演劇祭で演出を任されることになった家福は

愛車の赤のサーブで広島にやってきて

そこに滞在しながら

俳優たちと共に舞台演出や稽古に励む

そこで専属ドライバーとして

彼の車を運転することになったみさきと

移動中

つかの間

ともに過ごすことに

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音がいなくなった喪失感を拭えないでいた家福は

みさきや劇の関係者、俳優たちとの関わりを通して

それまで目を背けていた音の秘密に向き合っていく

つくづく

語る映画です

役者たちの発する言葉は

丁寧で

的確で

それは多分に文学的で

僕は読んでいませんが

やはり村上春樹の原作が

本作を形作る上での

確かなベースになっているようですね

何せセリフがいい

耳にスーッと染み込んでいきます

さらに本作は

劇中劇として

チェーホフの戯曲『ワーニャ伯父さん』が

物語の大切なモチーフになっていて

主人公、家福の車の中で

常に『ワーニャ伯父さん』のセリフの録音テープが流れるため

練り込まれた言葉が

映画の行方をあたかも示唆しているようで

なおさらある種

深淵な響きを伴って耳に入ってきます

どっちかというと

文学的側面が強く出ていて

相対的に映像の力は

若干、後退しているようにも感じます

しかし

なんですよ

じーっと観ていくうちに

観る者も車の中にいながら

劇中の人物たちと行動を共にする

いわば追体験する

その思いを

空気感を

自ずと共有するのです

一見単調な映像の中にあって

しかし知らぬ間に

ランナーズハイにも似た心地よいリズムが得られ

車が走り、移動しながら

車中では『ワーニャ伯父さん』のセリフが

絶えず流れ続ける

主人公、家福がそれに呼応してセリフを読む

時折、車内で言葉が交わされる

そうした中で

ふと

相手との言葉のやりとりを通して

いわばレセプターが開かれる

つまり心が通う

そしてモヤモヤとしていた頭の中が

クリアになってくる

ことの次第が明らかになってくる

自分の置かれている状況が

今なすべきことが

明確になってくる

こうなると物語の進行につれて

ますます目が離せなくなってきます

って

それはそうと

亡くなった妻の音が物語を創作する方法が

奇妙でエロくて

なんとも村上春樹なんだよなぁ

『ノルウェイの森』もそうですが

村上春樹にかかると

これがどういうわけか

必然的で本質的な表現

ということになるんですよね

なんとなくわかるような

いまひとつわからないような

まあユニークに違わないですね

終始、抑揚の少ない淡々と穏やかな展開の中で

思わぬドラマ的な高揚が

観ていて

あるいは会話を聴いていて

時折垣間見れ

ドキッとさせられ

つくづく

映画は『ワーニャ伯父さん』に

家福をはじめ

登場人物たちの心情を重ね合わせ

絶妙な劇中劇を構成してみせます

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特に興味深いのは

この劇が

いろんなアジアの国籍の俳優たちで構成された

多言語劇であるという点です

さらには手話も加わり

それぞれの言語そのままで

劇が進行していくのです

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言葉=伝えるということに対する

より効果的なアプローチとは何か

ひいては

コミュニケーションとは何か

その具体的なビジョンを提示し

観ている側と共有したいという

ある種、野心的なまでの試み

また演出に対するアプローチの方法論が

家福を通して語られるのですが

こうした意図は多分に

濱口監督の実際の手法なのだとわかりましたね

つまり劇中の役者たちは

実際の映画の現場でも

濱口監督のもとで

劇中と同じプロセスに則って

演技を実践している

西島演じる家福と濱口監督が

まんま重なるのです

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こうなると映画の中で映し出される映像は

限りなくドキュメンタリーに近いと言えるわけで

濱口監督は

ドラマとドキュメンタリーの境界が曖昧であると語っていますが

本作はまさに

その実例を示したことになりますね

そしてあらためて

役者陣がいい

影を帯びて空虚だが

しかしひたむきな視線がとても落ち着いていて

誠実な人柄を感じさせる西島秀俊

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逆に

いつ暴発するかわからない危うさをはらみつつ

時折一瞬のきらめきを垣間見せる岡田将生

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また物語のキーパーソンで

家福の妻・音を演じた霧島れいかの

ミステリアスな存在感

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そして無表情で諦念漂う若きドライバーを演じた

三浦透子がこれまた出色で

この映画は

広くは彼女の物語でもあると言えましょう

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終盤の

みさきの故郷へと向かう長旅を経て

現在、そして明日へとつながる

象徴的なラストまで

喪失から再生へと至るビジョンが

見事な世界観の中に収められた傑作

いやあ

濱口監督の卓越した手腕が光ります

というわけで

『ドライブ・マイ・カー』

久々にロードムービーの醍醐味を実感しましたね

これは必見です

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