映画『ペパーミント・キャンディー』

1999年の韓国映画
『ペパーミント・キャンディー』
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監督・脚本は
韓国を代表する巨匠
イ・チャンドン(1954-)
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本作は
あるひとりの男の20年間(1979-1999)を
現在から過去へ遡って描くという
ユニークな手法を用いた野心作で
韓国映画の実力を
世界に知らしめた一本です
…
◎1999年(現在)
川辺での同窓会に
ふらりと現れたキム・ヨンホは
酒に酔いながら
おかしな挙動で周囲を慌てさせ
やがて「戻りたい!」と叫び
列車に身を投げて自殺する…
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◎1990年代
事業に失敗し、結婚生活も破綻
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粗暴で他者を傷つける男となり
人生に何の希望も見いだせなくなっている
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◎1980年代後半
警察官として拷問や暴力に手を染め
冷淡で非情な一面を爆発させる
罪悪感を自覚するも
もはや引き返せない
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◎1980年代前半
兵役からの除隊直後
心に深いトラウマを抱え
かつて愛していた女性ともすれ違い
感情を閉ざしていく
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◎1980年5月
戒厳令下の光州
兵役につくヨンホは
軍人として投入され
銃声の飛び交う市街地で足を負傷
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そうした中で
ひとりの少女を誤って射殺してしまい
激しく動揺し号泣する…
これが彼の精神を壊す
決定的な転換点となる
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◎1979年(最も過去)
川辺で歌う若者たち
スニムと目が合い2人は惹かれ合う
淡い恋に胸ときめかせる
純粋で心優しい青年ヨンホ
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このとき
スニムはヨンホに
彼女が毎日工場で包んでいた
ペパーミント・キャンディーを渡す…
あらためて
この逆行構造によって
ヨンホがなぜ鉄道に飛び込んだのか
その動機や背景が
象徴的なエピソードの断片によって
ひとつひとつ積み重ねられ
その要因が
徐々に解き明かされていきます
最後には
彼のかつての無垢な姿が映し出され
失われた青春と
取り返せない時間の痛みが
ヒリヒリと伝わってきます
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ヨンホが
心に深い傷を負い
人生を狂わせ
やがて転落していくに至る
その起点は
光州事件にあります
本作が公開された当時
光州事件は
韓国のデリケートな社会事情もあって
おそらくまだ
大々的に扱うことが
許されなかったのではないでしょうか
本編においても
直接的な弾圧場面などはなく
加害者(兵士)の心理描写を通して
その傷跡を浮き彫りにするという表現をとっています
後に
『光州5.18』(2007)や
『タクシー運転手』(2017)などで
真正面から描いた商業映画が
ようやく出てきますが
あらためて
光州事件は韓国社会において
単なる過去の出来事ではなく
今なお
深い傷、トラウマ、政治的タブーとして
社会や政治ほか多方面に影響を与えているように思います
とりわけ本作では
光州事件が
個人にもたらした深刻な影響度合いを
鑑みないわけにはいきません
写真好きの純朴な青年が
兵士として少女を殺してしまったことから
人格が変容し
そして人生が破滅していく…
主人公ヨンホは
軍が市民を武力弾圧した光州事件以降
急速に高まる民主化運動を
権力側として取り締まる立場で関わり
また経済発展とその後の通貨危機を
身をもって体感するなど
本作は
個人の崩壊と韓国現代史が
深く結びついた構成となっているのです
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過去を悔やみ
拭い去ることができないトラウマを抱え続けた
ひとりの男が辿る
哀しい末路…
なんという切ない物語でしょうか
と
あらためて
主演のソル・ギョングが
20代の青年から40代の中年男性までを
ひとりで演じきり
もう圧巻の一語です
彼の熱演なくしてはあり得ませんでしたね
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というわけで
『ペパーミント・キャンディー』
イ・チャンドンの
卓越した手腕
大胆さと繊細さが融合した
その緻密な演出に唸る他ない
いやあ
稀に見る傑作
これは必見です
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おまけ
イ・チャンドンの作品について
以前書いた記事です
◎『バーニング』→こちら
◎『シークレット・サンシャイン』→こちら










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