映画『アントニオ・ダス・モルテス』
西洋かぶれ、欧米崇拝
はたまた事大主義⁈
ハハハ
正直、自分の中に確かにあると認めますね
って
よくよく僕の場合
これはもうひとえに映画に負うところ大でして
まあ最たる要因ですね…
つくづく映画は
アメリカやヨーロッパでそれこそ圧倒的な質量をともなって
日本に流入、先んじられてきた経緯があり
であるがゆえに
対立軸をなしていた旧ソ連やポーランドなど東欧の社会主義諸国
あるいはここは日本なので
逆に対極に位置するアジアの映画が指向され
日本国内はもちろんのこと、中国、近年では韓国などの東アジアや
インド、東南アジア、また中東までも含め
多くの映画が流入、親しまれてきました
…が
世界は広いですぞ
まだまだあります
もう一方のベクトル
西洋の文化、東洋の文化とも違う
欧米の先進諸国、旧ソ連を中心とした社会主義諸国とも違う
いわば第三世界の文化がこれ厳然と存在しているわけで
特にはアジアを除いたところの、アフリカやラテンアメリカの国々です
ここらへんの映画は
う〜ん
つくづく僕らの到底理解し得ない異質な価値観
いわゆる一般商業映画の枠を大きく逸脱した
異文化体験のまさに宝庫ですね
ということで前置きが長くなりましたが
映画評
1969年のブラジル映画
『アントニオ・ダス・モルテス』
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監督は
ブラジルにおける革新的な映画運動
「シネマ・ノーヴォ」の先導者にして
わずか43歳の若さで早逝した伝説的な存在
グラウベル・ローシャ(1938-1981)
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「シネマ・ノーヴォ」は
政治的な独立を果たしたものの
経済的には先進国に依存せざるを得ず
固有の文化を維持するのが困難な状況にあった当時のブラジル社会の
精神的、文化的停滞を打破すべく興った映画運動で
そこにおいてローシャは
問題の本質を“脱植民地化”と捉え
いかにして入植者の論理から脱却し
自国の現実を世に提示しうるかに注力
貧困や不平等、古い因習、暴力の問題など
ブラジルが抱える矛盾、混沌
そのありのままの姿をカメラに収めていったのです
そうして世に放たれた作品群は
西欧列強に対する第三世界の独立の気運
いわばポストコロニアリズムのムードに溢れた
一種異様な空気感をまとい
ファンタジーとドキュメンタリーが奇妙に融合した
荒々しくも繊細な抒情性を獲得したフィルムが創出されています
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ブラジル北部の農村
聖女と、信者である貧しい農民たち
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彼女ら民衆を守る山賊、カンガセイロ
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聖女たちの存在を疎ましく感じた地主は
伝説の殺し屋アントニオを雇い
カンガセイロの殺害を依頼する
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衆人環視の中
カンガセイロと決闘し致命傷を負わせたアントニオだが
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時が経つにつれ次第に疑念が募り
やがて真の敵が誰なのかに気づく
そしてアントニオは弾圧される農民たちを解放すべく
支配階級へと矛先を向け、戦いを挑んでいく…
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と、こう書くとわかりやすいのですが
いやいや
そもそも何なんでしょう
ここに映し出されている世界は…
善悪も定かでなく
登場人物の考えや行動もいまいち理解できない
一体、画面上で何が行われているのかが
容易にはわからない
映画はどこまでも予測不能な危うさを内包しながら
大胆不敵に展開していきます
アントニオの悠然とした佇まい
ある種、祝祭的なまでの喧騒の中
緩慢なリズムに乗って繰り広げられる
殺し屋アントニオと義賊カンガセイロの決闘
…という名のある種の儀式
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明らかに異質なテンポ
一体どこに収束するのか
皆目見当がつかない
それは多分にブラジルの乾いた風土に起因するようです…
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灼熱の太陽が照りつける荒れ果てた大地
飢えと貧困にまみれながらも
しかしブラジルの民ひとりひとりの中に眠る血が黙ってはいない
熱くたぎる心
悲壮感も何もない音楽的な高揚
そして踊り狂う民
画面を横溢する剥き出しの感情
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60年代の政治的混沌がはらむ熱気
思わず目を奪われる鮮やかな原色
ゴツゴツした岩肌
サボテンの存在感
生い茂る雑草
舞い上がる砂埃
ザラついた空気感
そのあまりにリアルな風情
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そこに流れる
盲目の謡い手によって歌い継がれる
フォークロア(=民間伝承)の音色
漂う詩情
いやあ
この動と静の強烈なコントラスト
充満するエネルギー
なんとまあ
異質で独特な、魅惑に満ちた世界観でしょうか
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というわけで
ローシャによって創造された
60年代ブラジルの湧き上がる熱狂
底知れぬ生命力に
いやはや
もうひたすらに圧倒される傑作です
と
こちらは『アントニオ…』と対をなし
ローシャの特異な世界観を最初に世に知らしめた傑作
『黒い神と白い悪魔』(1964)
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あとおまけで
だいぶ前にローシャの5作品が一挙上映された時に本ブログに書いた記事です
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https://cho-tomoiki.com/45368/
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