映画『スラムドッグ$ミリオネア』
映画評です
2008年製作
イギリスのダニー・ボイル監督の
『スラムドッグ$ミリオネア』
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もうかれこれ10年近く前になるんですねぇ
その年の米アカデミー賞を総ナメにした傑作です
いやあ
抜群の面白さでしたね
この映画を通して
近年めざましい経済発展を遂げ
IT大国へと変貌したインドの底力をまざまざと見せつけられ
いよいよインドが世界のメインストリームに躍り出たなという
そんな驚きと感慨を当時抱いたのを覚えています
インドのムンバイにあるスラム街出身の青年が
インドの人気TV番組“クイズ・ミリオネア”に出演し
次々と正解を当てていき
とうとうあと最後の一問で
賞金2000万ルピーを獲得できるところまで到達
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しかしスラム街出身で無学であるはずの彼が
これほどの知識があるのはおかしいと
司会者に疑いをかけられ
途中、警察に逮捕連行されてしまう
そして警察の尋問によって彼は自らの生い立ちと
この番組に出演するに至った経緯を語り始めるのだが
彼の語る実体験には
クイズへの答えがすべて詰まっていた…
とまあ本作は
青年が自ら体験してきた過酷な半生を回想することによって
クイズへの答えが示されるという物語構成になっていまして
その答えの背景となるインドの過去と現在
…ヒンドゥー教による身分制度や宗教対立の現実
貧富の格差の激しいインド社会の実状と
急成長を遂げた現在の姿
そんなまさに光と影を
インド国内、全編オールロケで余すことなく映し出しています
本作最大の見どころが
スラム街での少年時代のくだりでしょうか
監督のボイルは
ゴミ溜めのような貧民街にいながらも
明るくたくましく生きる子供たちの姿を
躍動感溢れる演出でいきいきと活写していきます
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流麗なカメラワークと
早いカット割りによる
スタイリッシュな映像と
そこにかぶさるテンポのいい音楽
いやあ
ここらへんはボイルの面目躍如
代表作『トレイン・スポッティング』を彷彿とさせる
疾走感が全編を貫きます
さらに特筆すべき“肥溜め”のシーン
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思わず画面から凄まじい悪臭が漂ってきそうな
不快極まるシーンですが
ギラつく太陽に照らされた
汚物まみれの子供から発せられる
底知れぬ生命力
猥雑さ
漂う聖性…
う〜ん
なんというんでしょうか
底辺を生きる人間に原初の真の姿を見出す
これはまさに
パゾリーニ的世界観に相通じる視点で
ある意味
とっても美しいシーンだなと心底感じた次第です
と本作は
クイズに答えていくというプロットの中で
インド社会の様々な日常や現実を垣間見つつ
基本的にはベタベタのラブストーリーです
さらにはボイル監督の
イギリス人ならではの配慮でしょうか
劇中
インドの観光名所タージ・マハルの宮殿を映し出したり
ラストにはお約束
歌と踊りの大団円を披露したりと
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どこか
インド映画の巨匠たち
サタジット・レイやグル・ダットに敬意を表し
インド映画の価値観や伝統をしっかり踏襲しているようにも思えて
ソツがないといいますか
ホント抜かりがないですね
そして日本でもおなじみ
“クイズ・ミリオネア”が醸す高揚感とともに
映画は終始小気味よいテンポが保たれたまま
ドラマティックなハッピーエンドを迎えます
つくづくこの映画は
娯楽的な要素と社会的な要素
ボイルのクリエイターとしての特色が
バランスよくミックスされて
まこと完成度の高い作品に仕上がりましたね
文句のつけようがありません
ところであらためて本作は
インド人による原作
インド国内オールロケ
インドの役者たちを使った
まさにインドのための映画なのですが
資本がインドかと思いきや
実はほぼイギリスとアメリカの資本なんですね
さらにはイギリス人の監督によって撮られ
それが世界最高の賞を受賞したという事実は
少なからず
インド映画界に波紋を投げかけたようです
というのもそもそもインド映画は
“ボリウッド”と呼ばれ
年間の製作本数も
米ハリウッドをはるかに上回る映画大国だからです
このような優れた映画を
インド人ではなく外国人が作ったということを
インド映画界は
自分たちのプライドにかかわる事態として
今後の教訓と定めているんだそうです
なるほどですね
いずれにせよ
インド映画の今後に要注目です
そんなわけで
インドの底知れぬエネルギーに溢れた一本
今更ながら必見です
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