映画『ブンミおじさんの森』

鬱蒼と生い茂る森

暗闇の中で妖しく光る赤い眼

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2010年にタイで製作された

『ブンミおじさんの森』

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この年のカンヌ国際映画祭で

タイ映画として初めて最高賞のパルムドールに輝いた話題作

監督は美術の分野においてもその名を知られるタイの新鋭

アピチャッポン・ウィーラセタクン(1970)

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アピチャッポンは

自身の故郷であるタイ東北部のイサーン地方を拠点に

この地の歴史や政治的背景

古くから伝わる民間伝承や私的な記憶、夢などを題材に

独自の世界観を創出した表現活動を展開

いま世界が注目している気鋭のアーティストです

ふと、自身の故郷、奈良を創作の源として映画を撮り続けている

日本の河瀬直美監督のスタンスにも

ちょっと似ているところがありますが

なにせ目の前に映し出される映像が

う〜ん

これがなんともユニークで摩訶不思議なんです

何より冒頭

水牛が草原を駆け抜け

森へと分け入っていくシーンから始まって

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映画は終始

ため息の出るような美しさで彩られています

腎臓の病に冒され、死期を悟ったブンミは

妻の妹ジェンと親戚のトンを自分の農園に呼び寄せる

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と、ある夜の食卓に

19年前に亡くなった妻フェイの霊が

ふいに現れ

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さらには数年前に行方不明となっていた息子ブンソンも

猿の精霊となった特異な姿で現れる

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やがてブンミは愛する者たちと共に

森の奥深くへと分け入っていき

そこで静かに最期の時を迎える

本作は

タイの僧侶による著書『前世を思い出せる男』

がベースとなっていて

いわば輪廻転生を描いています

虫や鳥たちの鳴き声や風にそよぐ木々の音など

現場音が不思議な余韻を残す中で

おもむろに感じる

樹木や沼、雲に宿る何か別の確かな存在

奥深い暗闇の中に息づく森の精霊たち

その象徴がブンソンとして現出した猿の精霊です

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森の神秘性に

さらには聖性が加わり

画面に漂う空気感はどこまでも穏やかで

終始優しい時が流れています

幽霊や精霊たちは身近な存在として傍にいます

人々は特段、怖がることも驚くこともしません

当たり前のこととして霊が受容され

人間と共生しているのです

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幽霊となって現れた妻に

あらためて愛を打ち明けるブンミ

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また劇中

唐突に挿入される不思議なエピソード

ナマズと交わる王女の話

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あるいは軍事クーデターに参加して

共産兵を殺した過去を思い煩ったり

独裁者が支配する世界が映し出されたり

これは死を目前にしたブンミが前世で見た夢

あるいは記憶の断片でしょうか

森の奥へと分け入り

洞窟へと辿り着いたブンミは

そこで夢の話を終えると

愛する人たちに囲まれ

安らかな表情で死に至ります

独特のゆったりとしたテンポで丹念に紡がれる

輪廻転生という生命の循環

内在する特異な宗教観、精神性

観ている僕の胸にスーッとしみ込んでいく

ある種の愉悦

異文化に触れる喜びを心底実感します

そしてブンミの葬式の夜

映画はさらに不思議な光景を見せてくれます

映像と音の時間的、空間的なズレ

前世と現世

はたまた次元の違い()を表す

奇妙なラストシーン

いっときゴダールが試みた

画と音をずらすことによって

異化作用を生み出すソニマージュの手法

その進化形が

ここアジアの

輪廻転生という仏教的な世界観の中に帰着するとは

いやあ

しっかし面白い

今だかつて見たことのない映像です

つくづく本作は美しいイマジネーションに溢れ

まさに共生のあるべき姿を描いた傑作です

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