映画『今宵かぎりは…』
数年前
スイスの映画監督
ダニエル・シュミット(1941-2006)
の特集上映がやっていたのですが
時間がなくて行けませんで…
なんとも悔やまれましたね
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って
何が悔しかったって
どうしても観たい映画があったからです
その映画をかれこれ20数年前にTV放映された時に
僕は一度観てまして
う〜ん
それは未だかつて観たことのない
強烈で濃密な映像体験でしたね
今だに忘れられず
もう一度観たいと思うのですが
DVD化もされていないため
それも叶わず…
ということで切望の意味を込めて
今回ご紹介です
1972年製作
ダニエル・シュミット監督の
『今宵かぎりは…』
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ダニエル・シュミットといえば
一言で
耽美派
といった括りになりましょうか
しかしこの人はホント独特の感性の持ち主で
そのセンスは唯一無二のものですね
シュミットの美的感覚が培われたバックボーンは
彼が祖父母の経営する
スイスの保養地にあるシュバイツァーホフ・ホテルで生まれ育った経緯と
無縁ではないでしょう
ここのホテルのラウンジで夜ごと繰り広げられる大人たちの宴を
少年だったシュミットはこっそり覗き見していたんだそうです
やがて彼は映画やオペラにどんどん熱中していき
そうして比類なき感性が形成されていった、と
そして本作は
その生家シュバイツァーホフ・ホテルで撮影された
彼の記念すべき長編第1作にあたります
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ストーリーは単純そのもので
年に一度
聖ネポムークの祭りの日に限り
主人と召使いがその役割を交換する
という趣旨のもと
城館の薄暗い大広間で召使いを前にして
主人たちがいろいろな歌や踊り、オペラの演目を披露していく
とまあ
それだけの話なんですが
この一夜限りの見世物が
なにせ奇妙で一種異様な世界なんです
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強く印象に残っているのは
青白く妖しい光に照らされた照明のもと
白塗りの女性など
ただならぬ雰囲気の人物たちによる
恐ろしく緩慢な動き
時間の感覚が希薄で
およそシュールで現実味がなく
あっちの世界のような幽玄さに包まれています
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って
なんなんだこの映像は…
目の前に映し出された
あまりに異質な映像に戸惑いと
怖れすら感じつつ
それでもずっと観続けるうちに
う〜ん
ただならぬ雰囲気の中
奇抜な衣装に身を包んだ演者たちの
不気味で退廃的な歌や踊りのパフォーマンスに
なぜか見とれてしまい
魔術にかかったような
不思議な感覚にとらわれる自分がいましたね
上映時間はたったの1時間22分なんですが
遅すぎるテンポのせいか
もっと長い映画のように感じます
でも僕は全然退屈しなかったなぁ
またユニークなのは
観ている召使いたちが
笑ったり感動したりというような感情を一切見せない
まったくの無表情でひたすら静かに淡々と観ているところ
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カメラも終始固定されたままで撮っていて
ホント摩訶不思議な光景なんですが
ふと
こうした演出の意図は
いわば
物語よりも形式を重視
もっと言えば
独特のリズム、タッチ、トーンにこだわりぬいた
その様式美にこそあるのかな、と
そしてそれは往々にして俗悪な方向性でして
でも
なるほど
こういう美しさもあるのか
この世のものとは思えないほどの
“異様さ”に
むしろ魅せられる
そんな感覚を自分の中に見出して
う〜ん
観た当時は妙に得心したのを覚えています
さらには
西洋貴族文化の伝統と格式に則りながらも
その実
表われた情景は
文字通りアンダーグラウンドを地で行くような
禍々しくも怪しい世界
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一夜だけ立場が逆転するこの聖ネポムークの日に
あえて自分たちの価値観や体裁までも逆転させる一興ぶり
主人たちが内心嬉々として演じていた様子がうかがえます
と
ここまでくると
もはやドラマとかドキュメンタリーとかの境界線すらあやふやで
もうどうでもよくなってしまいます
というわけで
いやあ
まさに耽美派ダニエル・シュミットの面目躍如といったところ
というわけで
ああ
なかなか観ることのできないこの異色の映画
是非もう一度観た〜い
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