映画『哀れなるものたち』

ただいま上映中です

2023年製作

イギリス、アメリカ、アイルランド合作の

『哀れなるものたち』

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アラスター・グレイの同名小説を

ギリシャ出身の若き鬼才

ヨルゴス・ランティモス(1973-)が映画化

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いやはや

なんとも

奇想天外

映し出されるのは

シュールで異様な世界観の

稀に見る創出です

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人生を悲観して

お腹の中の胎児と一緒に

自ら身を投げて命を絶った女性ヴィクトリア

ところが天才外科医ゴッドウィンの手によって

彼女は胎児の脳を移植されて

奇跡的に蘇生する

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ベラと名づけられ

赤ん坊の脳を持った大人の女性として

新たな人生をスタートさせた彼女は

目にするもの

手に取るもの

すべてが新鮮で初めての体験の連続

そうして日々

急速な知的成長を遂げていくベラは

いつしか性の快楽に目覚め

危険な男たちに誘われるように

ヨーロッパ各地を旅することになる

やがてベラは

偏見にまみれた現実を目の当たりにし

真の自由や平等を希求する

自立した女性へと

大きく変貌を遂げていく

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はじまりはモノクロで

ゴシックホラーの趣き

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やがて画面はカラーへと変わり

ヴィクトリア朝時代のイギリスを彷彿とさせる

クラシカルで様式化された

おとぎの国のような夢の世界が顕現

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このまばゆくも壮麗な

美術のセットに囲まれて

繰り広げられる

ダークでブラックな物語

う〜ん

やられましたね

ベラは

最初、赤ん坊のような知能で

人間というより

ほぼ動物に近く

どこまでも無垢な存在

そんなベラですが

女性を男性の添え物として捉え

封建的な社会規範に押し込めようとする

世の常識や体裁を

彼女はフル無視

まったく意に介さず

自分の感じたまま

本能の赴くまま

先入観なしにフラットな目で世界を見て

自由に過ごしている

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それは

性のあり方に対しても同様で

羞恥心や貞操観念がまったくない

己の欲望の赴くままに

セックスの快楽に耽ることが

何ら悪いことだと思っていない

う〜ん

ベラのこの

ありのままの姿

本作における

過激な性描写の連続には

少なからず戸惑いを覚える僕がいます

こう

何というのでしょうか

ベラが

旺盛な好奇心と肉体的な快楽を求め

男たちと次々関係を重ねるにつれて

観ている側は

ベラが毒されていくように感じ

半ば保護者にも似た心地で

その光景を目の当たりにするにつれて

次第にいたたまれなくなるのです

って

ベラを誘惑し外の世界へと連れ出す

遊び人の弁護士ダンカンが

ベラを意のままに操ろうとするも

彼女は言うことを聞かない

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挙げ句

そうした窮屈な状況に反発し

自由気ままに外へと飛び出ていくのです

狭い世界に閉じ込めることを

無意識によしとするダンカンの本心を

なかば見透かし嘲笑うかのように

ベラは

次から次へと男たちと関係を重ね

世界を吸収し

日増しに力強く美しくなっていきます

それと反比例するように

ダンカンは精神的、肉体的に荒んでいき

また金銭的にも追い詰められていきます

って

そんな敗残者ダンカンに

あろうことか

自分を重ね合わせて観ていることに

どこかでハタと気づく僕がいたりします…

よくよく

彼女に接する人たち(=男たち)が

何かしら気づきや刺激を受け

己の浅はかさや狭量さが

自ずと露呈され

そうしてある種の変化を促される…

つまりは

ベラという存在自体が

さながらリトマス試験紙のように

ひとりひとりの本質を炙り出し

観る者の価値観を測る

いわばフィルターの役割を果たしているのです

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ベラは

旅の最中に

世の矛盾

男性中心社会のあり方や

貧困に喘ぐ人々の姿など

理不尽な現実を度々目の当たりにします

そうして次第に

社会主義的な価値観に目覚め

医者になって人々を助けたいと思うようになります

そう

本作は

ラディカルなフェミニズムから

社会主義思想へと通底する

鋭敏なテーマを内包し

強烈な毒気とともに

その是非を

観る者に突きつけます

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何にもまして

本作は

ベラを演じたエマ・ストーンの

女優生命をかけた入魂の演技に

これ尽きますね

性別、年齢、地位

はたまた倫理や道徳、善悪をも超越した

特異なキャラクターで

ひとりの女性が直面する

理性と本能のせめぎ合いを

たしかな説得力を持って

人間味豊かに体現しています

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最初はポニョのように

ヒョコヒョコと

辿々しい足取りだったのが

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日々、スポンジのように

世界のあらゆることを吸収していくうちに

やがて美しく自立した女性として

力強い足取りで

大地を踏み締めるようになります

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また脇を固める助演陣も最高で

つぎはぎだらけの外科医ゴッドウィンを演じた

ウィレム・デフォーの異様な相貌

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無様に堕ちていく

狡猾な弁護士ダンカンを演じた

マーク・ラファロも出色です

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つくづく

エキセントリックなメイクや

華麗で斬新な衣装に目を奪われ

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縦横無尽のカメラワークを駆使した

魅惑の映像美に酔いしれ

不穏で不気味で

しかし荘厳な音楽に圧倒され

このいまだかつて観たことのない

独創的な異世界のあり様に

ほとほと

打ちのめされる他ない

本作は

そんな強烈なエネルギーを

終始放ち続けています

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って

しかしねぇ

話を蒸し返すようですが

本作における

度重なるセックスシーンは

果たしてどうなんでしょうか…

素材として刺激的であるが故に

結局そこか…

といった

どこか表現としての安易さや

他方で

ベラが真の自由を獲得すべく

金銭的に自立するには

なんだかんだ

こういう方法になるのか…

といった

ある種の違和感は

正直

観ている間中

常に感じていましたね

あくまで

主体的なスタンスを示す女性像

さらには

セックスが

ラディカルな思想へと至るための

いわば通過儀礼的な意味合いをなしている

というのは多分に理解できるのですがね

まあ

僕が保守的で了見が狭いだけかな…

ふぅ

またタイトルである

“哀れなるものたち”とは

一体誰を、何を指しているのでしょうか?

本作は

善悪の対象や

いわば加害と被害の構図を

単純に割り切って捉えることができず

外科手術を施されたベラのような被験者

女性や貧しい人々などの社会的弱者だけを

必ずしも指していないように思え

よくよく絡み合っていて

多様な視点で解釈することができます

そんなこんな

本作は

観る者を少なからず困惑させ

価値観を激しく揺さぶらずにはいられませんね

ホントこういう凄い映画に出くわすと

自ずと感性の毛穴が全開になり

おっと

僕の拙い文章も

ついつい

長文になってしまいました

ハハハ

まだまだ書き足りないですが

そろそろこのへんで…

というわけで

『哀れなるものたち』

グロテスクな怪作であると同時に

様々な示唆とアイロニーを含んだ

気宇壮大な人間ドラマの傑作

あらためて

ランティモス恐るべし

いやあ

今年は

本作以上の作品に出会えるか

ちょっと難しいように思いますね

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おまけ

僕が以前

ランティモスの『聖なる鹿殺し』について

本ブログに書いた記事は→こちら

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