映画『ファイブ・イージー・ピーセス』

1970年公開

アメリカン・ニューシネマの秀作

『ファイブ・イージー・ピーセス』

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監督は人間ドラマの演出に定評のあった

ボブ・ラフェルソン(1933-2022)

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本作主演のジャック・ニコルソンとは

数々の作品でコンビを組みました

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石油採掘現場で働くボビーは

行き当たりばったりの自堕落な毎日を送っていた

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彼はウェイトレスのレイと同棲し

気ままに過ごしていたが

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彼女が妊娠したことを知り

戸惑いを隠せないでいた

そんな折

姉から父が倒れたことを聞かされ

彼はレイを連れて

3年ぶりに実家へと帰郷する

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ボビーの実家はワシントン州の離島にあり

代々音楽一家で

いわばインテリの富裕層であった

彼もかつては

クラシックのピアニストとして

将来を嘱望されていたが

自ら途中で投げ出し

家を出て行ってしまったのだ

そんなボビーが

疎遠になっていた家族と

断絶していた父と

久々に対面し

そして

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う〜ん

将来が約束された

エリートコースの人生に対する

漠然とした反発

敷かれたレールを歩むことに対する

ある種の違和感

なぜなのか?

どうして素直に従うことができないのか?

実際のところ

当の本人にもわからない

明確な理由を見つけられず

いつまでも苦しんでいるのだ

そうして

度々

逃避しては

放浪の旅に出かけてしまう

世の体裁や責任、義務から逃れて

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あらためて

本作が製作された60年代後半のアメリカは

ベトナム戦争の真っ只中で

政治に対する不信感が増大し

既存の価値観に対するカウンターカルチャー

いわば反体制の気運が押し寄せた時期

この時代は

特に

何不自由ないが故の

不自由さ

とでもいいましょうか

満たされない思いや空虚感、疎外感が

得体の知れない怒りや悲しみを伴って表出

つまりは

上昇志向を是とする

アメリカの資本主義的価値観

富や成功、成長といったベクトルに対する

言いようのない疑問、反発が

自ずとドロップアウトを誘引し

そうして若者たちを

あてどもない放浪の旅へと向かわせる

しかし

自由や理想といったものは幻想に過ぎず

つまるところ

何も見つけられず

後戻りもできず

もがき苦しむ羽目になり

気がついたら

中年に差しかかっていた、と

そうしたヒッピー世代が抱く

屈折した心理、苦悩を

本作は

まこと的確に表現しています

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しばしば

画面いっぱいにさらされる

剥き出しの感情

ボビー演じるニコルソンや

恋人レイを演じるカレン・ブラックはじめ

登場人物たちの

リアルな相貌が

さらには

パーソナリティの本質が

にわかに立ち現れます

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圧巻は中盤の

ボビーが

車椅子に乗った話のできない父に向かって

自分の思いを吐露するシーン

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父と理解し合えない苦しみ

価値観の違い

世代間のギャップ

父の期待に

応えることができない己を恥じ

自身の弱さと直面し

謝罪の意を告げるボビー

こみ上げる感情を抑えきれず

父の前で

思わずむせび泣く姿に

観ている方も

心揺さぶられずにはいられません

また劇中

ボビーが

ショパンのプレリュードを弾く場面は

なんとも彼の鬱屈した

それでいて諦念を滲ませた心情を

しみじみ窺い知れて

印象的でしたね

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しっかし

つくづく

激情と繊細さが混在し

無二の個性を発揮した

ニコルソンの演技が素晴らしいですね

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そして

ボビーが現実逃避する様を

引きのショットで捉えた象徴的なラスト

観ていてじわじわと

虚無感に襲われる思いがします

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いやあ

すごい映画ですね

というわけで

『ファイブ・イージー・ピーセス』

60年代後半における

アメリカ社会の負の側面を

鮮烈に切り取った

ニューシネマの傑作

今更ながらオススメです

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